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相続人に認知症の方がいる場合、遺産分割協議はどうする?
相続人に認知症の方がいると遺産分割協議は無効になる
ご家族が亡くなり相続が開始されたものの、相続人の中に認知症の方がいらっしゃるため、遺産分割協議を進められずお困りではないでしょうか。ご家族が亡くなった直後に複雑な相続手続きが必要となり、どのように進めればよいか判断に迷うことも少なくありません。
まず、ご理解いただきたい最も重要な点は、認知症などによって判断能力(意思能力)が不十分な相続人が参加した遺産分割協議は、法的に「無効」となってしまうということです。良かれと思って他のご家族が代わりに署名したり、ご本人の状態を理解しながら無理に協議を進めてしまったりすると、後々すべての手続きがやり直しになるだけでなく、思わぬ法的リスクを負うことにもなりかねません。
このセクションでは、なぜ遺産分割協議が無効になるのか、その法的な根拠とリスクについて、基本から分かりやすく解説します。この問題の重要性を正しく理解することが、適切な解決策への第一歩となります。なお、相続手続きの全体像については、遺産分割の詳細で体系的に解説しています。
遺産分割協議に不可欠な「意思能力」とは?
遺産分割協議が法的に有効となるためには、参加する相続人全員に「意思能力」が備わっていることが大前提となります。
意思能力とは、法律用語で「自らの行為の結果を正しく判断できる精神的な能力」を指します。遺産分割協議に当てはめて具体的に言えば、「この合意書に署名・押印することで、自分がどの財産をどれだけ取得し、どの財産を諦めることになるのかを、正しく理解し判断できる状態」にあることが求められます。
認知症が進行すると、この意思能力が失われてしまう可能性があります。もちろん、「認知症=意思能力なし」と一律に判断されるわけではありません。症状の程度は人それぞれであり、意思能力の有無は、医師の診断やご本人の言動などを総合的に考慮して、個別に判断されることになります。遺言の有効性が争われる場面でも、作成当時に遺言能力(意思能力)があったかどうかが重要な争点となります。
意思能力がないまま協議した場合の法的リスク
もし、意思能力がない相続人が参加して遺産分割協議書を作成してしまった場合、その協議は法的に「無効」です。これは、初めから協議そのものが存在しなかったことと同じ扱いになります。
その結果、たとえ協議書に基づいて不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約・分配を完了させていたとしても、それら全ての手続きをやり直さなければなりません。これは大変な手間と時間がかかるだけでなく、相続人間の新たなトラブルの原因にもなり得ます。
さらに、他の相続人が「本人のためだから」と安易に署名を代筆する行為は、極めて重大なリスクを伴います。
遺産分割協議がまとまらない状況は精神的にも大きな負担となりますが、法的なリスクを回避し、すべての相続人の権利を守るためにも、正しい手順を踏むことが不可欠です。もし遺産分割協議が不成立となった場合と同様に、法的な手続きを検討する必要があります。
有力な解決策となる「成年後見制度」とは?その全体像を理解する
相続人の中に意思能力が不十分な方がいる場合、遺産分割協議を法的に有効な形で進めるためには、成年後見制度の利用が重要な選択肢となります。この制度は、家庭裁判所が関与して、ご本人の財産や権利を守るための援助者(成年後見人など)を選任するものです。
手続きが複雑そう、費用がかかりそう、といったイメージから利用をためらう方もいらっしゃいますが、まずは制度の目的と仕組みを正しく理解することが重要です。
制度の目的:本人の財産と権利を守る
成年後見制度の最も根本的な目的は、判断能力が不十分なご本人の「財産保護」と「身上監護(生活や医療・介護などに関する契約手続き)」にあります。遺産分割協議を進めるためだけの一時的な手続きではなく、あくまでご本人の利益を最優先に考え、継続的に財産と権利を保護するための制度です。
例えば、成年後見人が選任されれば、悪質な訪問販売の契約を後から取り消したり、ご本人にとって最適な介護サービス契約を結んだりすることが可能になります。この「本人の利益が最優先」という大原則があるからこそ、後述するように、遺産分割協議においても成年後見人はご本人の法定相続分を確保する義務を負うことになるのです。
「法定後見」と「任意後見」の違い
成年後見制度には、大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。
- 法定後見制度:
既に認知症などで判断能力が不十分になっている方のために、家族などの申立てにより、家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。相続が発生した時点で既にご家族が認知症である場合は、こちらの制度を利用します。 - 任意後見制度:
まだ判断能力が十分にあるうちに、ご本人が将来判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ自分で選んだ代理人(任意後見人)と公正証書で契約を結んでおく制度です。
この記事では、相続開始時にすでに意思能力に問題があるケースを想定しているため、主に「法定後見制度」について解説を進めていきます。
判断能力の程度で分かれる3つの類型「後見・保佐・補助」
法定後見制度は、ご本人の判断能力の程度に応じて、支援の範囲が異なる「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分けられます。どの類型に該当するかは、医師の診断書などを基に、最終的に家庭裁判所が判断します。
| 類型 | 本人の判断能力の程度 | 援助する人 | 主な権限 |
|---|---|---|---|
| 後見 | 常に判断能力が欠けている状態 | 成年後見人 | 包括的な代理権・取消権 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な状態 | 保佐人 | 民法所定の重要な法律行為に関する同意権・取消権。申立てにより特定の法律行為について代理権の付与や同意権の範囲拡張が可能 |
| 補助 | 判断能力が不十分な状態 | 補助人 | 申立てにより特定の法律行為に対する代理権・同意権・取消権 |
遺産分割協議は重要な財産行為であるため、後見類型では成年後見人がご本人を代理して協議に参加します。保佐・補助類型では、遺産分割協議について家庭裁判所から代理権を付与されている場合に、保佐人・補助人がご本人を代理して協議に参加します。なお、相続人の中に 行方不明の方がいる場合 には、成年後見制度ではなく「不在者財産管理人」の選任を検討することになります。
(参考:厚生労働省「任意後見制度とは(手続の流れ、費用)」)
【弁護士が解説】成年後見制度を利用すべきかの判断基準
成年後見制度は有力な解決策ですが、一度開始すると本人の判断能力が回復するなどの事情がない限り継続する制度であり、費用や財産管理上の制約も伴います。そのため、利用に踏み切るべきか慎重に判断する必要があります。ここでは、弁護士の視点から、制度を利用すべきかどうかの判断基準をメリット・デメリットの比較を通じて解説します。
制度利用のメリット・デメリット徹底比較
まずは、制度のメリットとデメリットを客観的に比較してみましょう。

| メリット | デメリット |
|---|---|
| 止まっていた遺産分割協議を進められる | 申立て費用や後見人への報酬がかかる |
| 本人の財産を法的に保護・管理できる | 親族が後見人になれるとは限らない |
| 他の相続人による財産の使い込みを防げる | 本人の財産が厳格に管理され、自由な処分(贈与、不動産売却、相続税対策など)が困難になる |
| 凍結された預金口座の解約・管理ができる | 一度開始すると、本人の判断能力が回復しない限り途中でやめられない |
利用を積極的に検討すべきケース
上記を踏まえ、以下のようなケースでは、デメリットを考慮しても制度利用を積極的に検討すべきと考えられます。
- 遺産に不動産が含まれ、売却や名義変更が必要な場合
遺産分割協議が完了しないと、不動産の売却や賃貸活用はできません。固定資産税や管理費の負担だけが続く事態を避けるためには、制度の利用が不可欠です。 - 相続税の申告期限が迫っている場合
相続税の申告・納税は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった節税効果の大きい特例を利用するには、原則として申告期限までに遺産分割が確定している必要があります。 - 本人の預金を医療費や介護費用に充てる必要がある場合
ご本人の預金口座が凍結されている場合、成年後見人を選任することで、法的に預金の解約や管理が可能になり、必要な費用を支払うことができます。なお、緊急の支払いには 預貯金の仮払い制度 を利用できる場合もあります。 - 他の相続人との関係が複雑で、財産管理に不安がある場合
第三者である専門家が後見人となることで、財産が公正に管理され、相続人間の無用なトラブルを防ぐことができます。
成年後見制度を利用した遺産分割協議の流れと重要ポイント
成年後見制度を利用すると決断した場合、どのような流れで手続きが進むのでしょうか。申立てから遺産分割協議完了までの具体的なステップと、特に注意すべき重要なポイントを解説します。

STEP1:家庭裁判所への後見開始の申立て
手続きは、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に「後見開始の審判」を申し立てることから始まります。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族などです。
申立てには、主に以下の書類が必要となります。
- 申立書
- 申立事情説明書
- 本人の戸籍謄本、住民票
- 後見人等候補者の住民票
- 医師の診断書(成年後見用)
- 本人の財産目録及びその資料(預金通帳のコピー、不動産登記事項証明書など)
- 本人の収支状況報告書及びその資料
特に、ご本人の判断能力を証明する「医師の診断書」は、審理において最も重要な書類となります。申立て準備から審判が確定するまでには数ヶ月を要することもあるため、相続税の申告期限などを考慮し、早めに準備に着手することが肝心です。
(参考:裁判所「後見開始」)
STEP2:後見人の選任と遺産分割協議の開始
家庭裁判所は、提出された書類や関係者への聞き取り(審問)などを通じて審理を行い、後見を開始すべきかを判断し、最も適任であると判断した人物を成年後見人として選任します。
申立て時に親族を後見人の候補者として推薦することは可能ですが、遺産額が大きい場合や親族間に意見の対立がある場合などでは、中立的な立場の弁護士や司法書士などの専門家が選任されるケースが多くなっています。
後見人が正式に選任されると、いよいよ後見人がご本人の代理人として、他の相続人との間で遺産分割協議を開始します。この際、後見人はあくまでご本人の利益のために行動する義務があり、原則としてご本人の法定相続分を確保する内容の分割案でなければ合意できません。他の相続人が「介護の負担が大きかったから長男が多く相続したい」といった希望を出しても、法的な根拠がなければ後見人は同意できないということを理解しておく必要があります。この協議が完了して初めて、 相続登記 などの手続きに進むことができます。
【最重要】利益相反と特別代理人の選任
成年後見制度を利用した遺産分割協議において、最も注意しなければならないのが「利益相反」の問題です。これは、手続き全体を無効にしてしまう可能性のある、非常に重要なポイントです。
利益相反とは、一方の利益になると、もう一方の不利益になる関係を指します。具体例で考えてみましょう。
【事例】
父が亡くなり、相続人は長男と認知症の母の2人。長男が母の成年後見人になっているケース。
この場合、長男が母の代理人として遺産分割協議に参加すると、どうなるでしょうか。長男は、自分の取り分を多くすれば、母の取り分が減ることになります。逆に、母の取り分を多くすれば、自分の取り分は減ってしまいます。このように、長男(後見人)と母(被後見人)の利益が真っ向から対立してしまいます。
このような利益相反の状態では、後見人である長男は母を代理して遺産分割協議に参加することはできません。この問題を解決するためには、成年後見監督人が選任されている場合を除き、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります。特別代理人には、利害関係のない弁護士などの専門家が選任され、その遺産分割協議においてのみ、母の代理人として協議に参加します。
この特別代理人の選任手続きを怠ったまま遺産分割協議を進めてしまうと、その協議は無効となるため、絶対に忘れてはならない手続きです。
将来に備えるために|認知症になる前の生前対策
ここまで、相続発生後にご家族の認知症が判明した場合の対応策を解説してきましたが、こうした複雑な手続きは、本来であれば生前に対策を講じておくことで回避できる可能性があります。今回の経験を踏まえ、将来のために、あるいはご自身の相続に備えるために、有効な生前対策をご紹介します。相続トラブルを防ぐための遺言書作成は、その基本となります。
遺言書の作成:遺産分割協議を不要にする
最もシンプルかつ効果的な対策が「遺言書」の作成です。
遺言書によって財産の分け方が具体的に指定されていれば、相続発生後に相続人全員で遺産分割協議を行う必要がなくなります。そのため、たとえ相続人の一人に判断能力の問題が生じていたとしても、遺言の内容に従ってスムーズに相続手続きを進めることが可能です。
特に、公証人が作成に関与し、原本が公証役場に保管される「公正証書遺言」は、法的な不備で無効になるリスクを抑えやすく、確実性を重視する場合に検討しやすい方法です。より具体的な手順については、公正証書遺言を作成する際の具体的手順をご覧ください。
家族信託の活用:柔軟な財産管理と承継を実現
近年、注目されているもう一つの選択肢が「家族信託」です。
これは、ご本人が元気なうちに、信頼できるご家族(例えば子)との間で信託契約を結び、財産の管理や処分を任せる制度です。契約内容を柔軟に設計できるのが特徴で、ご本人が認知症になった後も、託された家族(受託者)が契約に従って不動産の売却や賃貸管理、預貯金の管理などをスムーズに行うことができます。
家庭裁判所の監督を受けないため、成年後見制度よりも機動的で柔軟な財産管理が可能となり、相続発生後の財産の承継先まで指定できるなど、遺言の機能も兼ね備えることができます。ご家族の状況に合わせて柔軟な対策を検討したい場合に、選択肢の一つとなります。
相続人に認知症の方がいる場合の遺産分割は、法的な論点が多く、ご家族だけで判断するのは困難なケースが少なくありません。成年後見制度の申立てや利益相反の問題など、専門的な知識が不可欠です。お困りの際は、ぜひ一度、当事務所の弁護士にご相談ください。ご状況を丁寧にお伺いし、事情に応じた解決策をご提案いたします。
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相続人が行方不明…遺産分割を進める「不在者財産管理人」とは
相続人が行方不明だと遺産分割協議ができない理由
ご家族が亡くなり、相続が開始されると、残された遺産を誰がどのように引き継ぐかを決めるために「遺産分割協議」を行う必要があります。しかし、この協議は、法律上の相続人全員が参加し、全員が合意しなければ法的に成立しません。
一人でも欠けた状態で行われた遺産分割協議は、後から無効となってしまいます。たとえ長年音信不通で、どこにいるか分からない相続人がいたとしても、その方を無視して手続きを進めることはできないのです。
この原則があるために、相続人の一人でも行方不明の状態が続くと、預貯金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きが一切進められず、手続きの進行が困難になることがあります。このような状況で相続手続きを進めるために利用される制度が、今回解説する「不在者財産管理人」です。
不在者財産管理人とは?民法25条に基づく役割と目的
不在者財産管理人とは、行方不明となっている相続人(不在者)に代わって、その方の財産を管理・保存する人のことです。家庭裁判所によって選任され、不在者の利益を守ることを第一の目的として行動します。
この制度は、民法第25条第1項に根拠があります。
(不在者の財産の管理)第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
遺産分割協議においては、この不在者財産管理人が行方不明の相続人の代理人として協議に参加することで、相続人全員の参加という要件を満たし、手続きを適法に進めることが可能になります。重要なのは、管理人はあくまで不在者の利益を守るために行動する中立的な立場であり、申立てをした他の相続人の意向通りに動くわけではないという点です。この立場が、後の手続きで重要な意味を持ってきます。
「不在者」とは?生死不明でなくても対象になる
法律上の「不在者」とは、単に連絡が取れないというだけではなく、「従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みがない者」を指します。ここで重要なのは、必ずしも生死が不明である必要はないという点です。
例えば、どこで生活しているか全く分からない、手紙を送っても返送されてくる、といった状況が長期間続いていれば、「不在者」に該当する可能性があります。ご自身のケースが対象となるかどうかの判断には法的な知見が必要となります。
失踪宣告との違いは?どちらを選ぶべきか
不在者に関する手続きとして、もう一つ「失踪宣告」という制度があります。両者は似ているようで、法的な効果が全く異なります。
| 項目 | 不在者財産管理人 | 失踪宣告 |
|---|---|---|
| 前提 | 不在者が生存していることを前提とする | 不在者を法律上死亡したとみなす |
| 要件 | 行方不明であること | 生死不明の状態が7年以上継続(普通失踪) |
| 役割 | 不在者の財産を管理・保存する | 死亡とみなされるため、不在者の相続が開始される |
| 本人が帰来した場合 | 管理業務は終了し、財産は本人に返還される | 宣告の取消手続きが必要。行った法律行為(遺産分割など)が複雑な問題になる可能性がある |
どちらの制度を選択すべきかは、行方不明となってからの期間や状況によって異なります。失踪宣告は、不在者が死亡したものとして扱われるため、手続きはシンプルになる側面もありますが、万が一帰来した際の影響は非常に大きくなります。一般的には、まず不在者財産管理人の選任を検討し、生死不明の期間が7年以上に及ぶような場合に失踪宣告を視野に入れるのが適切でしょう。

不在者財産管理人を選任し遺産分割を進める全手順
それでは、具体的に不在者財産管理人を選任し、遺産分割協議を進めるための手順を解説します。この手続きは家庭裁判所を介して行われ、大きく3つのステップに分かれます。
STEP1:家庭裁判所への選任申立て
まず、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることから始めます。
- 申立人:利害関係人(他の相続人、不在者の債権者など)
- 管轄裁判所:不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所
- 申立費用:収入印紙800円分、連絡用の郵便切手などが必要です。また、管理費用に不足が出る可能性がある場合には、事案に応じて予納金を裁判所に納めるよう求められることがあります。
- 必要書類:
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本、戸籍附票
- 管理人候補者の住民票または戸籍附票
- 利害関係を証明する資料(申立人が相続人の場合は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本など)
- 財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金通帳の写しなど)
- 不在の事実を証する資料
特に重要なのが「不在の事実を証する資料」です。これには、宛先不明で返送された手紙、親族からの聴取書、警察への行方不明者届受理証明書などが該当します。申立てにあたっては、被相続人の財産だけでなく、不在者自身の財産についても、判明している範囲で財産調査を行い、目録を作成する必要があります。
申立書の書式については、裁判所のウェブサイトで確認できます。
STEP2:権限外行為許可の申立て【重要】
無事に不在者財産管理人が選任されても、すぐに遺産分割協議に入れるわけではありません。ここが、この手続きにおける最も重要なポイントです。
不在者財産管理人の基本的な権限は、民法103条に定められた「保存行為」と「管理行為」に限られています。具体的には、財産の価値を維持したり(建物の修繕など)、利用したり(賃貸不動産の賃料回収など)することです。
一方、遺産分割協議は、不在者の財産形態を大きく変える「処分行為」にあたります。このような権限を超える行為を行うためには、別途、家庭裁判所の許可を得なければなりません。これが「権限外行為許可の申立て」(民法28条)です。
(管理人の権限)第二十八条 管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
裁判所は、提案されている遺産分割案が、不在者の利益を害するものではないかを厳しく審査します。特に、不在者の法定相続分が金銭などで実質的に確保されているかが、許可を得るための極めて重要な判断基準となります。

STEP3:不在者財産管理人を交えた遺産分割協議
家庭裁判所から権限外行為許可を得て、初めて不在者財産管理人を交えた遺産分割協議が可能になります。管理人は、あくまで不在者の代理人として、許可された遺産分割案の内容に沿って協議を進めます。
協議がまとまれば、その内容を記した遺産分割協議書を作成します。この協議書には、他の相続人と並んで、不在者財産管理人が「不在者〇〇 財産管理人 △△」のように署名・押印することで、法的に有効な遺産分割が成立します。もし、他の相続人間でも話がまとまらない場合は、遺産分割調停に移行することになります。
【実務上の選択肢】帰来時弁済型の遺産分割とは
不在者に不動産などの現物資産を相続させると、管理人が長期にわたってその財産を管理し続ける負担が生じます。特に、不動産の共有名義は将来的な紛争につながる可能性があります。
そこで実務上よく用いられるのが「帰来時弁済型」と呼ばれる分割方法です。これは、不在者には具体的な財産を相続させず、その法定相続分に相当する金銭(代償金)を、将来本人が帰ってきたときに他の相続人が支払う、という内容の遺産分割です。不在者の取得分を金銭債権という形で確保することで、裁判所の許可も得やすくなる傾向があります。この方法は、管理人の負担を軽減し、より現実的な解決を図るための有効な選択肢と言えるでしょう。
不在者財産管理人の選任は弁護士への相談が賢明
ここまで見てきたように、不在者財産管理人を選任して遺産分割を進める手続きは、法律の専門知識が不可欠であり、非常に複雑です。ご自身で対応することも不可能ではありませんが、多大な時間と労力がかかるだけでなく、法的な不備が生じるリスクも伴います。このようなケースこそ、弁護士に依頼するメリットが非常に大きいと言えます。

メリット1:煩雑な申立手続きと裁判所対応を任せられる
弁護士にご依頼いただければ、申立てに必要な戸籍謄本の収集、不在の事実を証明する資料の準備、家庭裁判所に提出する申立書の作成といった煩雑な手続きをすべて一任いただけます。特に、裁判所を納得させるための申立書や遺産分割案の作成は、専門的な知識と実務経験が求められる部分です。
選任後の裁判所とのやり取りや、権限外行為許可を得るための的確な主張も、すべて代理人として行います。これにより、皆様の時間的・精神的なご負担を大幅に軽減することが可能です。
メリット2:中立的な第三者として円滑な遺産分割を主導できる
不在者財産管理人の候補者として、相続人の一人を立てることも考えられます。しかし、他の相続人と利害関係があるため、裁判所が選任に慎重になるケースも少なくありません。
その点、利害関係のない第三者である弁護士が候補者となることで、家庭裁判所から選任されやすくなる傾向があります。また、弁護士が管理人として中立的な立場で遺産分割協議に参加することで、感情的な対立を避け、他の相続人の皆様にもご納得いただきやすい、円滑で公平な解決を目指すことができます。これは、遺産分割で争いが生じることを防ぐ上でも大きなメリットです。
メリット3:将来のリスクを回避する遺産分割協議書を作成できる
遺産分割では、将来の事情も踏まえた内容にすることが重要です。特に不在者が関わるケースでは、将来的なリスクを想定した万全の対策が必要です。
弁護士は、不在者が帰来した場合に生じ得る問題を想定し、必要な条項を盛り込んだ遺産分割協議書の作成を支援します。例えば、帰来時弁済型での分割を行う際、代償金の支払義務者や支払方法を具体的に定めておくことで、将来の紛争リスクを抑えることができます。長期的な法的安定性を確保できることこそ、専門家にご依頼いただく最大の価値の一つです。
まとめ|相続人の行方不明問題は専門家と解決を
相続人の中に行方不明の方がいても、決して諦める必要はありません。「不在者財産管理人」制度を活用することで、法的に正しく遺産分割協議を進められる可能性があります。
しかし、その手続きは家庭裁判所を介する専門的かつ複雑なものであり、的確な対応が求められます。特に、不在者の利益を守るという観点から、裁判所は慎重に審査を行います。安易にご自身で判断して手続きを進めてしまうと、かえって時間がかかったり、予期せぬトラブルに発展したりする可能性も否定できません。
相続人の行方が分からずお困りの方は、早めに、相続問題を取り扱う弁護士にご相談ください。法的な手続きについて、状況に応じた解決方法をご提案いたします。
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遺産分割協議、遺留分侵害額請求、遺言無効等に広く対応しております。
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配偶者居住権とは?メリット・デメリットを弁護士が徹底解説
配偶者居住権とは?制度が生まれた背景をわかりやすく解説
「夫が亡くなった後、この家に住み続けられるだろうか」「遺産分割で子どもたちと揉めて、家を売らなければならなくなったらどうしよう」「老後の生活費は足りるだろうか」
パートナーに先立たれた方の多くが、このような深い不安を抱えていらっしゃいます。特に、遺産の大部分がご自宅の不動産である場合、法定相続分どおりに分けるためには、家を売却して現金化せざるを得ないというケースが少なくありませんでした。
こうした状況を防ぎ、残された配偶者の生活と居住の安定を守るために、2020年4月1日に施行されたのが「配偶者居住権」という制度です。
配偶者居住権とは、非常にシンプルに言うと、建物の所有権を持っていなくても、亡くなった配偶者が所有していた建物に、終身または一定期間、無償で住み続けることができる権利のことです。この権利は法的に保護されているため、たとえ家の所有者が他の相続人(例えばお子様)になったとしても、安心して住み慣れた我が家での生活を続けられます。
この制度は、残された配偶者の居住環境を安定させ、相続後の生活基盤を保護することを目的としています。この記事では、あなたの未来を守る選択肢となりうる配偶者居住権について、メリット・デメリットから具体的な手続きまで、弁護士がわかりやすく解説します。遺産分割の全体像については、遺産分割の詳細で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。
参照:法務省|残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。
【具体例で比較】配偶者居住権を利用する2大メリット
配偶者居住権を活用する最大のメリットは、「住み慣れた家での安定した暮らし」と「老後の生活資金の確保」を両立できる点にあります。言葉だけでは分かりにくいかもしれませんので、具体的な家族モデルを使って、その効果を見ていきましょう。
【モデルケース】
- 亡くなった夫の遺産:自宅(評価額3,000万円)、預貯金2,000万円
- 遺産総額:5,000万円
- 相続人:妻と子1人
- 法定相続分:妻1/2(2,500万円)、子1/2(2,500万円)

このケースで、配偶者居住権を利用した場合としなかった場合で、妻が取得できる預貯金額がどのように変わるのかを比較します。
メリット1:自宅に終身住み続けられる安心感
まず、配偶者居住権の最も基本的なメリットは、法的に保護された権利として、終身または合意した期間、無償で自宅に住み続けられるという絶大な安心感です。
仮に遺産分割の結果、自宅の所有権をお子様が相続したとしても、配偶者居住権を設定していれば、所有者であるお子様から「家を売りたいから出ていってほしい」「家賃を払ってほしい」などと要求されることはありません。これは、単なる「住まわせてもらっている」という立場とは全く異なる、法律で認められた強力な権利なのです。
相続を機に、親子関係が思わぬ形で変化してしまうことは少なくありません。そのような万が一の事態に備え、ご自身の「住まい」という生活の基盤を法的に守れることは、計り知れない精神的な支えとなるでしょう。
メリット2:老後の生活資金となる預貯金をより多く確保できる
次に、多くの方が気にされる「お金」の面でのメリットです。配偶者居住権は、自宅に住み続ける権利そのものを財産として評価しますが、その評価額は所有権よりも低くなります。そのため、法定相続分(このケースでは2,500万円)の枠内で、より多くの預貯金を確保できるのです。
先ほどのモデルケースで比較してみましょう。ここでは仮に、配偶者居住権の評価額を1,500万円とします。(実際の評価額は配偶者の年齢等に応じて変動します)
【配偶者居住権を利用しない場合】
妻が自宅に住み続けるためには、自宅の所有権(評価額3,000万円)を取得する必要があります。しかし、妻の法定相続分は2,500万円です。このままでは500万円分多く財産を取得してしまうため、差額の500万円を妻自身の預貯金からお子様へ支払う(代償分割)必要があります。結果として、妻は遺産の預貯金を一切取得できず、むしろ自己資金が500万円減少してしまいます。
- 妻が取得する財産:自宅所有権(3,000万円)
- 妻が取得する預貯金:0円
- 妻が子に支払う代償金:500万円
- 子が取得する財産:預貯金2,000万円 + 代償金500万円 = 2,500万円
【配偶者居住権を利用した場合】
妻は配偶者居住権(評価額1,500万円)を取得します。法定相続分の残り1,000万円(2,500万円-1,500万円)は、預貯金で取得できます。これにより、住まいの確保と同時に、老後の生活資金として1,000万円の現金を確保できるのです。
- 妻が取得する財産:配偶者居住権(1,500万円)+ 預貯金(1,000万円)= 2,500万円
- 子が取得する財産:自宅の所有権(負担付)(1,500万円)+ 預貯金(1,000万円)= 2,500万円
このように、配偶者居住権は、不動産の遺産分割における選択肢を広げ、残された配偶者の生活基盤の確保に役立つ制度といえるでしょう。
知っておくべき注意点とデメリット
配偶者居住権は多くのメリットがある一方で、利用する前に必ず理解しておくべき注意点やデメリットも存在します。弁護士として、将来のトラブルを防ぐために、これらのリスクについても公平にご説明します。安易に選択するのではなく、良い面と悪い面の両方を理解した上で、ご自身の状況に本当に合っているかを慎重に判断することが重要です。
権利の売却や譲渡はできない
配偶者居住権は、その配偶者一代限りの権利(一身専属権)です。そのため、第三者に売却したり、子どもに譲渡したり、相続させたりすることは一切できません。
これは、将来のライフプランを考える上で非常に重要な制約となります。例えば、将来的に介護施設へ入所することになり、その費用を捻出するために自宅を売却したいと考えても、配偶者居住権を放棄することはできても、売却して現金化することはできないのです。自宅の所有権はあくまで他の相続人が持っているため、所有者の同意なくして売却はできません。将来、不動産を売却して資金を得るという選択肢を残したい場合は、慎重な検討が必要です。
所有者との関係性が重要になる(リフォーム・修繕)
配偶者居住権を設定すると、「住む権利を持つ人(配偶者)」と「所有権を持つ人(子など)」という二つの権利が同じ建物に存在することになります。これにより、両者の協力関係が不可欠となる場面が出てきます。
民法では、日常的な小規模の修繕(例:電球の交換、壁紙の張り替え)は配偶者が負担し、建物の価値を維持するための大規模な修繕(例:雨漏りの修理、外壁の塗り替え)は所有者が負担すると定められています。また、配偶者の判断で大規模なリフォームや増改築を行うには、所有者の承諾が必要です。
さらに、固定資産税の納税義務者は建物の所有者ですが、配偶者居住権を持つ配偶者は、通常の必要費として固定資産税相当額を負担することになります。
所有者であるお子様との関係が良好であれば問題ありませんが、もし関係が悪化した場合、必要な修繕に協力してもらえなかったり、些細なことで意見が対立したりと、思わぬトラブルに発展するリスクがあります。権利を設定する際は、将来にわたって所有者と良好な関係を維持できるかどうかも、重要な判断材料となります。不動産を共有名義にするのとはまた別の注意点が必要なのです。
途中で権利を放棄すると贈与税がかかる場合も
「施設に入ることになったから、もうこの家に住む必要はない」と考え、配偶者が自らの意思で配偶者居住権を放棄することも可能です。しかし、この場合、税務上の問題が生じる可能性があります。
配偶者居住権を放棄すると、建物の所有者は、配偶者が住んでいるという制約から解放され、建物を自由に使用・収益・処分できるようになります。これは、所有者から見れば「権利の負担が消滅して利益を受けた」と解釈されます。そのため、配偶者から所有者へ、配偶者居住権の価値相当額が贈与されたとみなされ、所有者(子など)に贈与税が課される可能性があるのです。
良かれと思って権利を放棄した結果、お子様に思わぬ税負担を強いることになりかねません。将来権利を手放す可能性がある場合は、遺産分割の内容を含め、慎重な判断が求められます。
配偶者居住権はどのように設定するのか?成立要件と手続き
配偶者居住権は、相続が発生すれば自動的に与えられる権利ではありません。この権利を得るためには、定められた要件を満たし、適切な手続きを踏む必要があります。「自分は対象になるのか」「どうすれば利用できるのか」といった疑問にお答えします。

成立するための4つの要件
配偶者居住権が成立するためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
- 被相続人の法律上の配偶者であること
戸籍上の婚姻関係にあることが必要で、残念ながら内縁関係のパートナーは対象外です。 - 相続開始時に、被相続人が所有していた建物に居住していたこと
亡くなった時点で、その家に配偶者が住んでいたことが要件です。 - 建物が第三者との共有でないこと
被相続人が一人で所有していた建物か、夫婦の共有名義であった建物が対象です。 - 遺産分割、遺贈(遺言)、死因贈与契約、家庭裁判所の審判のいずれかによって権利を取得したこと
これが最も重要なポイントで、当事者の意思や法的な手続きによって初めて権利が発生します。
これらの要件を満たすかどうかを確認するためには、正確な相続人調査や財産調査が不可欠です。
設定するための3つの方法:遺言・遺産分割協議・審判
配偶者居住権を設定するには、主に以下の3つの方法があります。
- 遺言(遺贈)
被相続人が生前に「妻に配偶者居住権を遺贈する」という内容の遺言書を作成しておく方法です。これが最も確実で、相続人間の争いを防ぐ効果が期待できます。 - 遺産分割協議
遺言がない場合、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)によって、「配偶者が配偶者居住権を取得し、長男が所有権を取得する」といった合意を形成します。合意内容は遺産分割協議書に明記します。 - 家庭裁判所の審判
相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申し立て、その中で配偶者居住権の設定を求めることになります。裁判所が諸般の事情を考慮して判断を下します。円満な話し合いが難しい場合は、遺産分割協議が不成立の場合の対応策を検討する必要があります。
権利を守るための「登記」の重要性
配偶者居住権が成立したら、必ず「配偶者居住権設定の登記」を行うことを強くお勧めします。
登記は権利の成立要件ではありませんが、これをしておかないと、第三者に対してご自身の権利を主張することができません。例えば、自宅の所有者となったお子様が、その家を第三者に売却してしまったとします。このとき、登記がなければ、新しい所有者から「家から出ていってください」と要求された場合、対抗することができないのです。
登記は、配偶者居住権を第三者に対抗するために重要な手続きです。権利を確実なものにするために、忘れずに行いましょう。なお、2024年4月からは相続登記が義務化されており、不動産の権利関係を明確にすることの重要性はますます高まっています。
配偶者居住権の評価額はどう決まる?計算方法の考え方
遺産分割において、配偶者居住権がいくらの価値を持つのかを計算することは非常に重要です。この評価額が、他の財産をどれだけ取得できるかに直結するからです。
詳細な計算式は非常に複雑ですが、基本的な考え方は「建物全体の価値」から「配偶者が亡くなるまで、所有者が建物を自由にできないことによる負担(所有権の価値)」を差し引くというものです。
具体的には、以下の要素が評価額に影響します。
- 建物の固定資産税評価額
- 建物の築年数や構造(法定耐用年数)
- 配偶者の年齢(平均余命)
簡単に言うと、配偶者が若ければ若いほど(平均余命が長いほど)、長期間住み続けることになるため配偶者居住権の価値は高くなります。逆に、高齢であれば価値は低くなります。
この計算は専門的な知識を要するため、ご自身で正確に算出するのは困難です。遺産分割協議においては、相続税申告で用いられる国税庁の計算方法を参考にすることが一般的ですが、当事者間の合意があれば他の評価方法を用いることも可能です。評価額を巡って争いになりそうな場合は、不動産の評価を含め、専門家にご相談ください。
【Q&A】配偶者居住権に関するよくあるご質問
ここでは、実務でよくお受けする配偶者居住権に関するご質問にお答えします。
Q1.「配偶者短期居住権」とはどう違うのですか?
配偶者居住権と名前が似ている「配偶者短期居住権」という制度があります。両者は目的も性質も全く異なります。
| 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 | |
|---|---|---|
| 目的 | 長期的・安定的な居住の確保 | 遺産分割が確定するまでの一時的な居住の確保 |
| 期間 | 終身または合意した長期間 | 遺産分割確定日まで(最低6ヶ月は保障) |
| 設定方法 | 遺言、遺産分割協議、審判などが必要 | 要件を満たせば当然に発生(手続き不要) |
| 登記 | 可能(第三者対抗要件) | 不可 |
簡単に言えば、配偶者短期居住権は、遺産分割が終わるまでの一時的な居住を保護する制度であり、配偶者居住権は、終身または一定期間の長期的な居住を確保するための権利であると理解するとよいでしょう。
Q2. 子どもがいない夫婦の場合でも利用できますか?
はい、お子様がいないご夫婦でも配偶者居住権は利用できますし、むしろ活用を検討すべきケースが多いといえます。
お子様がいない場合、夫が亡くなると、相続人は妻と夫の両親(または祖父母)、あるいは夫の兄弟姉妹となります。もし、夫の両親がすでに亡くなっている場合、法定相続人は妻(3/4)と夫の兄弟姉妹(1/4)です。
このとき、遺産分割協議で自宅の所有権を夫の兄弟姉妹と共有することになったり、最悪の場合、売却を求められたりする可能性があります。このような事態を避けるため、夫が生前に「妻に配偶者居住権を、兄弟姉妹に(負担付の)所有権を相続させる」という遺言書を作成しておくことが非常に有効です。これにより、妻の居住の安定を図りつつ、他の相続人にも配慮した円満な相続が実現しやすくなります。
まとめ|配偶者居住権の活用は弁護士への相談が安心です
配偶者居住権は、残された配偶者が住み慣れた家で安心して暮らし続けることを可能にし、同時に老後の生活資金を確保するための、非常に画期的な制度です。しかし、その一方で、権利の譲渡ができない、所有者との関係性が重要になるなど、将来を見据えて慎重に検討すべき点も多くあります。
ご自身の家族構成や財産状況、そして何よりも「どのような老後を送りたいか」というお気持ちによって、最適な選択は異なります。安易に自己判断せず、一度、相続問題に詳しい専門家にご相談いただくことをお勧めします。
私たち虎ノ門法律経済事務所柏支店では、相続分野に注力しており、配偶者居住権に関するご相談も数多くお受けしております。ご家族それぞれの想いに寄り添い、法的な観点から最善の解決策をご提案いたします。相続に関する初回のご相談は無料でお受けしておりますので、どうぞお一人で悩まず、お気軽にご連絡ください。
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遺産分割協議、遺留分侵害額請求、遺言無効等に広く対応しております。
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地元の法律事務所として、誠実に、円満な解決へと導きます。
遺産分割前でも預金を引き出せる?預貯金の仮払い制度を弁護士が解説
遺産分割前の「預貯金の仮払い制度」とは?創設の背景を解説
ご家族が亡くなられると、深い悲しみとともに、葬儀費用の支払いや当面の生活費の確保といった現実的な問題に直面します。しかし、亡くなられた方(被相続人)名義の銀行口座は、死亡の事実を金融機関が把握した時点で凍結されてしまい、原則として遺産分割協議が完了するまで預貯金を引き出すことはできません。
この口座凍結は、相続人の一人が勝手に預金を引き出し、他の相続人の権利を侵害することを防ぐための重要な措置です。しかし、その一方で、遺されたご家族が葬儀費用や入院費用の精算、あるいは日々の生活費の支払いにさえ困ってしまうという深刻な事態も引き起こしていました。

このような状況を改善するために、2019年7月1日の民法改正によって創設されたのが「預貯金の仮払い制度」です。この制度は、遺産分割協議が成立する前であっても、相続人が一定の範囲内で被相続人の預貯金を引き出すことを法的に認めるものです。これにより、相続人は当面の資金需要に対応できるようになり、遺されたご家族の経済的な負担を軽減することが可能になりました。
この制度は、相続手続きの公平性を保ちながら、遺されたご家族の当面の資金需要に対応するために設けられた制度です。このテーマの全体像については、銀行口座・証券口座の相続手続きの進め方で体系的に解説しています。
仮払い制度で引き出せる預貯金の上限額と2つの方法
預貯金の仮払い制度を利用するには、大きく分けて2つの方法があります。一つは金融機関の窓口で直接手続きを行う方法、もう一つは家庭裁判所の「保全処分」という手続きを利用する方法です。それぞれ上限額や手続きの難易度が異なるため、ご自身の状況に合わせて適切な方法を選択する必要があります。以下で、それぞれの方法について詳しく解説します。
より具体的な手続きを進める上では、まず被相続人の財産を正確に把握することが不可欠です。詳しい手順については、相続財産調査の基本と残高証明の取得方法をご覧ください。
方法1:金融機関の窓口で払い戻す場合の上限額
最も一般的で利用しやすいのが、金融機関の窓口で直接払い戻しを申請する方法です。この場合、引き出せる金額には以下の2つの上限が定められており、どちらか低い方の金額が適用されます。
- 計算式による上限:相続開始時(死亡時)の預貯金残高 × 1/3 × 払い戻しを求める相続人の法定相続分
- 金融機関ごとの上限:150万円
ここで重要なのは、「1つの金融機関ごと」に150万円が上限となる点です。例えば、A銀行に複数の支店があったとしても、それらを合算して150万円までしか引き出せません。一方で、A銀行とB銀行にそれぞれ口座がある場合は、各銀行で最大150万円ずつ、合計で最大300万円を引き出せる可能性があります。
【具体的な計算例】
被相続人のA銀行の預金残高が3,000万円、相続人が配偶者Bと子C、子Dの合計3人だったケースで考えてみましょう。
- 配偶者Bの法定相続分:1/2
- 子C、Dの法定相続分:それぞれ1/4
<配偶者Bが引き出せる上限額>
- 計算式による上限:3,000万円 × 1/3 × 1/2 = 500万円
- 金融機関ごとの上限:150万円
この場合、計算式の上限(500万円)が金融機関ごとの上限(150万円)を上回っているため、実際に配偶者BがA銀行から引き出せる金額は150万円となります。
<子Cが引き出せる上限額>
- 計算式による上限:3,000万円 × 1/3 × 1/4 = 250万円
- 金融機関ごとの上限:150万円
子Cの場合も同様に、実際に引き出せる金額は150万円です。このように、相続人の状況によって引き出せる金額は変動します。法定相続分は、代襲相続や数次相続など複雑なケースでは計算が難しくなるため注意が必要です。
方法2:家庭裁判所の保全処分を利用する場合
金融機関の窓口で引き出せる150万円では、高額な医療費の支払いや相続債務の弁済に足りないというケースも考えられます。そのような場合には、家庭裁判所に「遺産の仮分割の仮処分」を申し立てる方法があります。
この手続きの最大のメリットは、金融機関での手続きのような150万円という上限がないことです。裁判所が必要性を認めれば、150万円という上限にとらわれず、遺産に属する特定の預貯金債権の全部または一部について仮払いを受けられる可能性があります。
ただし、この手続きにはデメリットもあります。まず、利用するためには、前提として遺産分割調停や審判を家庭裁判所に申し立てている必要があります。つまり、すでに相続人間で話し合いがまとまらず、法的な手続きに移行している段階でしか利用できません。また、申立てには手数料がかかり、裁判所が「仮払いの必要性」や「他の相続人の利益を害しないか」といった点を慎重に審査するため、時間と手間を要します。
そのため、家庭裁判所の保全処分は、相続人間で争いがあり、かつ緊急に多額の資金が必要な場合に限定して検討すべき手続きと言えるでしょう。
参照:裁判所「申立手数料・郵便料等一覧表 【審判前の保全処分】」
預貯金の仮払い制度を利用するための手続きと必要書類
ここでは、金融機関の窓口で仮払い制度を利用する際の一般的な手続きの流れと必要書類について解説します。金融機関によって細かな取り扱いが異なる場合があるため、事前に電話などで確認することをお勧めします。
【手続きの基本的な流れ】
- 金融機関への連絡:被相続人の口座がある金融機関の窓口に連絡し、相続が発生したことと、預貯金の仮払い制度を利用したい旨を伝えます。
- 必要書類の準備:金融機関から案内された必要書類を収集・作成します。
- 窓口での手続き:準備した書類を持参し、金融機関の窓口で払い戻しの申請手続きを行います。
- 払い戻し:書類に不備がなければ、後日、指定した口座に振り込まれるか、現金で払い戻しを受けます。(通常1〜2週間程度かかることが多いです)
【主な必要書類】
一般的に、以下の書類が必要となります。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(または除籍謄本、改製原戸籍謄本)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 払い戻しを申請する相続人の印鑑証明書
- 被相続人の預金通帳・キャッシュカード
- 金融機関所定の払戻請求書
- 窓口で手続きする方の本人確認書類(運転免許証など)と実印
特に、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて集めるのは、転籍を繰り返している場合など、時間と手間がかかる作業です。相続財産の全体像を把握し、財産目録を作成する上でも、これらの書類は不可欠となります。
仮払い制度を利用する前に知るべき3つの重要注意点
預貯金の仮払い制度は非常に便利な仕組みですが、その手軽さゆえに、安易に利用すると深刻なトラブルを引き起こす危険性もはらんでいます。弁護士として、特に強調しておきたい3つの重要な注意点について解説します。これらのリスクを理解しないまま制度を利用することは避けましょう。

注意点1:他の相続人とのトラブルに発展する可能性
仮払い制度は、相続人の一人が単独で手続きを行うことができます。しかし、事前の説明がないまま利用すると、他の相続人から「なぜ相談もなしに勝手にお金を引き出したのか」「何に使ったのか」と疑念を抱かれ、遺産分割における争いにつながるケースがあります。
このような無用なトラブルを避けるために、以下の対策を徹底してください。
- 事前連絡の徹底:手続きを行う前に、必ず他の相続人全員に、制度を利用する旨、引き出す予定額、そしてその使い道を明確に伝え、理解を得ておきましょう。
- 領収書の保管:払い戻したお金は、必ず当初の目的(葬儀費用、医療費など)のためにのみ使用し、その支払いを証明する領収書や明細書をすべて保管してください。
- 私的流用の厳禁:たとえ一時的であっても、ご自身の生活費や遊興費などに流用することは絶対にやめてください。これがトラブルの最大の原因となります。
誠実な対応を心がけることが、円満な遺産分割協議への第一歩です。
注意点2:相続放棄ができなくなるリスク(単純承認)
これが最も注意すべき、そして最も深刻なリスクです。被相続人に多額の借金があるとは知らずに仮払い制度を利用し、そのお金を使ってしまうと、相続放棄ができなくなる可能性があります。
法律上、相続財産の一部でも処分・消費する行為は「単純承認」とみなされます。単純承認が成立すると、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐ意思があると判断され、後から多額の負債が発覚しても相続放棄をすることが極めて困難になります。
具体的には、払い戻した預貯金を以下のような用途に使うと、単純承認と判断されるリスクが高まります。
- ご自身の生活費やローンの返済に充てる
- 被相続人の借金の一部を返済する
- 個人的な遊興費に使う
一方で、社会通念上相当な範囲での葬儀費用に充てることは、単純承認にはあたらないと解されることが多いです。しかし、その判断は非常に専門的であり、個別の事情によって結論が異なる場合があります。
被相続人の負債の状況がはっきりしない段階では、安易にこの制度を利用すべきではありません。万が一のリスクを避けるためにも、まずは専門家である弁護士にご相談ください。
注意点3:遺産分割協議で「遺産の先取り」として扱われる
仮払い制度によって引き出したお金は、贈与されるわけではなく、あくまで「遺産の前受け(先取り)」という位置づけになります。したがって、最終的に遺産分割協議書を作成する際には、その金額を考慮して精算する必要があります。
例えば、相続財産の総額が5,000万円で、相続人が子Aと子Bの2人(法定相続分は各1/2)だったとします。子Aが仮払い制度で150万円をすでに受け取っていた場合、最終的な取り分は以下のようになります。
- まず、仮払いされた150万円を遺産総額に加算して計算します。
(5,000万円 – 150万円)+ 150万円 = 5,000万円 - この5,000万円を法定相続分で分けます。
子A、子Bともに、2,500万円ずつとなります。 - 子Aはすでに150万円を受け取っているため、その分を差し引きます。
子Aの最終的な取得額:2,500万円 – 150万円 = 2,350万円
子Bの最終的な取得額:2,500万円

このように、仮払いを受けた相続人は、その分だけ最終的に受け取る遺産が減ることになります。この精算について相続人間で認識がずれていると、これもまたトラブルの原因となり得ます。やはり、何にいくら使ったのかを明確に記録しておくことが極めて重要です。
仮払い制度と相続税の関係|引き出した預金も課税対象?
「仮払い制度で引き出した預金は、相続税の対象になるのか?」というご質問をよく受けます。結論から申し上げますと、仮払いによって引き出した預貯金も、当然ながら相続税の課税対象となります。
仮払い制度はあくまで遺産分割前に預金の一部を受け取る手続きであり、その預金が被相続人の財産であることに変わりはありません。したがって、相続税を計算する際の基礎となる相続財産の総額には、仮払いされた金額も含めて計上する必要があります。申告の際にこの分を含め忘れると、過少申告として後から追徴課税される恐れがあるため、注意が必要です。
ただし、引き出したお金を葬儀費用に充てた場合、その費用は相続税の計算上、相続財産から控除することができます(債務控除)。この控除を受けるためにも、葬儀費用の領収書は必ず保管しておき、正確な財産目録を作成することが大切です。
まとめ|仮払い制度の利用は弁護士への相談が安心です
預貯金の仮払い制度は、ご家族を亡くされた直後の経済的な困難を乗り越えるために設けられた、非常に有用な制度です。しかし、これまで見てきたように、その利用には相続人同士のトラブルや、相続放棄ができなくなるという重大なリスクが伴います。
特に、被相続人の負債状況が不明な場合や、他の相続人との関係が良好でない場合には、ご自身の判断で安易に手続きを進めるべきではありません。一度「単純承認」とみなされてしまうと、取り返しがつかない事態に陥る可能性も否定できないのです。
そのようなリスクをできる限り抑え、ご自身の状況に合った対応を検討するためには、手続きを開始する前に、相続問題に詳しい弁護士へ相談することが有用です。弁護士であれば、法的なリスクを正確に評価し、他の相続人との調整方法や、仮払いを受けた後の適切な対応について、具体的なアドバイスを提供できます。
虎ノ門法律経済事務所柏支店では、相続に関する初回のご相談は1時間無料でお受けしております。また、平日お忙しい方のために土曜日も通常営業しておりますので、お気軽にご利用いただけます。相続手続きに関するご不安やお悩みは、どうぞお一人で抱え込まず、私たち専門家にお聞かせください。当事務所の弁護士費用についても、明確にご案内しておりますのでご安心ください。
相続相談のお問い合わせ
虎ノ門法律経済事務所柏支店では相続トラブルに注力しています。
遺産分割協議、遺留分侵害額請求、遺言無効等に広く対応しております。
複雑化しやすい収益物件や非上場会社を巡る相続トラブルも複数扱っており、対応可能です。
地元の法律事務所として、誠実に、円満な解決へと導きます。
先代名義の不動産売却|遺産分割と数次相続の注意点を弁護士が解説
先代名義の不動産はなぜそのまま売却できないのか?
ご所有の不動産の登記情報を確認した際、お父様やお母様ではなく、さらに前の代であるお祖父様、あるいは曾祖父様の名義のままになっているケースは決して珍しくありません。そして、その不動産を売却しようと考えたとき、多くの方が「名義が違うけれど、相続人である自分が売却できるはず」とお考えになるかもしれません。しかし、法的にはその考えは通用しません。
不動産売買を安全・確実に進めるうえでは、「登記名義(登記簿上の所有者)を、実体の権利関係に合わせておくこと」が重要です。法務局に登記されている所有者でなければ、その不動産を有効に売却する権限はないのです。先代名義のままでは、買主へ所有権を移転する登記手続きができず、決済・引渡しまで安全に完了させることが困難になります。そのため、実務上は売買契約の締結自体を見送られるのが一般的です。
したがって、売却の第一歩は、この不動産を法的に正当な現在の所有者、すなわち相続人の名義に変更する「相続登記」を完了させることから始まります。この記事では、先代名義の不動産を売却するために不可欠な、複雑な相続関係の整理から売却完了までの具体的な手順と注意点を、相続問題に精通した弁護士が詳しく解説していきます。
放置は危険!先代名義不動産が引き起こす「数次相続」のリスク
「手続きが面倒だから」「いつかやろう」と、先代名義の不動産をそのままにしておくことには、想像以上に大きなリスクが潜んでいます。その最大のリスクが「数次相続(すうじそうぞく)」の発生です。
数次相続とは、例えば祖父名義の不動産の遺産分割協議をしないうちに、相続人である父が亡くなってしまう、というように、相続が立て続けに発生し、権利関係が複雑化していく状況を指します。

最初の相続(一次相続)では相続人が子どもたち3人だけだったとしても、そのうちの一人が亡くなれば、その人の相続権は配偶者や子どもたち(二次相続の相続人)へと引き継がれます。さらに、その子どもたちの一人が亡くなれば……というように、時間が経過すればするほど、関係者はネズミ算式に増えていきます。
相続人が増えれば増えるほど、以下のような問題が発生し、解決は極めて困難になります。
- 面識のない親族の出現:会ったこともない、あるいは遠縁の親族までが相続人となり、話し合いのテーブルに着いてもらうこと自体が難しくなります。
- 協力が得られない可能性:相続人のなかに一人でも非協力的な人や、法外な要求をする人が現れると、遺産分割協議は停滞してしまいます。
- 行方不明者や判断能力がない人がいる可能性:相続人のなかに行方不明者がいたり、認知症などで判断能力が不十分な方がいたりすると、家庭裁判所での特別な手続き(不在者財産管理人の選任や成年後見人の選任など)が必要となり、時間も費用もさらにかかります。
このように権利関係が複雑化した不動産は、事実上の「塩漬け」状態となり、売却はおろか、活用することもできなくなってしまうのです。数次相続と似た言葉に代襲相続がありますが、これらは発生の条件や相続人の範囲が異なるため、正確な理解が求められます。
さらに、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化され、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。正当な理由なく義務に違反した場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。問題を先送りにすることに、もはや何のメリットもありません。
参照:法務局「相続登記の申請義務化特設ページ」
【5ステップで解説】先代名義の不動産を売却するまでの全手順
複雑に思える先代名義不動産の売却ですが、手順を一つひとつ整理して進めることで、ゴールに近づけることができます。ここでは、売却までの道のりを5つの具体的なステップに分けて解説します。
ステップ1:相続人の調査・確定
最初に行うべき、そして最も重要な作業が「誰が法的な相続人なのか」を一人残らず確定させることです。なぜなら、後述する遺産分割協議は、相続人が一人でも欠けていると無効になってしまうからです。
相続人の調査は、亡くなった方(被相続人)の「出生から死亡まで」の連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本をすべて取得することで行います。これらの書類を遡って読み解くことで、法律上の配偶者や子、親、兄弟姉妹などを正確に特定できます。
数次相続が発生している場合は、亡くなった先代だけでなく、その後に亡くなった相続人についても同様に出生から死亡までの戸籍謄本一式が必要となり、作業は膨大かつ複雑になります。戸籍謄本の取り寄せは本籍地の市区町村役場で行いますが、本籍地が各地に点在していることも多く、時間と労力がかかる専門的な作業です。この段階でつまずいてしまう方も少なくありません。
ステップ2:遺産分割協議
相続人全員が確定したら、次はその全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。先代名義不動産の売却においては、この協議が最大の難関となることが多々あります。
協議には、確定した相続人全員の参加が必須です。遠方に住んでいる、関係が疎遠であるといった理由で一部の人だけで進めることはできません。対面での話し合いが難しい場合は、書面のやり取り(持ち回り)やオンライン会議などを活用することになります。
協議で決めるべき主な内容は、「誰がこの不動産を相続するのか」ということです。売却を前提としている場合、最も現実的で公平な方法として「換価分割(かんかぶんかつ)」という方法がよく用いられます。これは、相続人の代表者一人が不動産を相続して売却手続きを進め、売却後に得られた代金を他の相続人と法律で定められた割合(法定相続分)など、協議で合意した割合に応じて分配する方法です。
しかし、相続人間の感情的な対立や、「自分が親の面倒を見てきた」といった寄与分の主張などにより、遺産分割協議がまとまらないケースも少なくありません。話し合いがこじれてしまった場合は、家庭裁判所での調停や審判といった法的手続きを検討する必要があります。
ステップ3:遺産分割協議書の作成
相続人全員で合意した内容は、法的な効力を持つ書面である「遺産分割協議書」として残します。この書類は、後のトラブルを防ぐため、そして不動産の相続登記手続きで法務局に提出するための必須書類となります。

遺産分割協議書には、以下の項目を正確に記載する必要があります。
- 亡くなった方(被相続人)の情報(氏名、最後の住所、死亡日など)
- 不動産の情報(所在、地番、家屋番号など登記簿謄本の通りに記載)
- 誰がどのように財産を相続するかの合意内容
- 相続人全員の氏名と住所
- 作成年月日
特に、換価分割を行う場合の記載方法には注意が必要です。例えば、「相続人〇〇(代表者)が本件不動産を相続取得する。〇〇は本件不動産を売却し、その売却代金から諸経費を控除した残額を、各相続人に対し、法定相続分に応じて分配する」といった具体的な条項を盛り込むことで、後の分配トラブルを防ぎます。遺産分割協議書の作成には専門的な知識が求められます。
そして最も重要なのが、相続人全員が署名し、実印を押印することです。併せて、全員分の印鑑証明書も必要となります。
ステップ4:相続登記(名義変更)
遺産分割協議書と必要書類が揃ったら、いよいよ法務局で不動産の名義を先代から相続人へ変更する「相続登記」を申請します。この登記が完了して初めて、不動産を法的に売却できる状態になります。
相続登記の申請は、一般的に以下の流れで進みます。
- 登記申請書の作成
- 必要書類の収集・添付
- 管轄の法務局へ申請
遺産分割協議書や印鑑証明書のほか、相続人全員の戸籍謄本、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、相続する人の住民票、固定資産評価証明書など、多数の書類が必要です。数次相続が発生している場合、中間の相続登記を省略して最終的な相続人に直接名義を移せるケースもありますが、判断には専門知識が不可欠です。
不動産の相続登記は手続きが非常に複雑なため、司法書士や弁護士といった専門家に依頼するのが一般的です。
ステップ5:不動産の売却活動
相続登記が完了し、不動産の名義があなた(または代表相続人)に変われば、ようやく売却活動のスタートラインに立てます。ここからの流れは、一般的な不動産売却と同様です。
- 不動産会社へ査定を依頼する
- 媒介契約(売却活動を依頼する契約)を締結する
- 販売活動を開始する
- 買主が見つかったら売買契約を締結する
- 決済(代金の受け取り)と物件の引き渡しを行う
相続した不動産の売却には、通常の売却とは異なる税務上の知識や注意点があるため、相続不動産の取り扱いに慣れた不動産会社を選ぶことが重要です。無事に売却が完了し、代金を受け取ったら、遺産分割協議書の内容に従って他の相続人へ速やかに分配し、一連の手続きはすべて完了となります。
注意点:共有名義での相続はトラブルの元
遺産分割協議の際、「とりあえず公平に、相続人全員の共有名義にしておこう」という結論に至ることがあります。一見、円満な解決策に見えるかもしれませんが、これは将来のトラブルの火種を抱え込む、非常に危険な選択です。
共有名義の不動産には、以下のような大きなデメリットがあります。
- 活用の制限:不動産全体を売却するなどの処分や、共有物に「変更」を加える工事を行うには、共有者全員の同意が必要になるのが原則です。一人でも反対すれば、何もできなくなってしまいます。
- さらなる権利関係の複雑化:共有者の一人が亡くなれば、その人の持分はさらにその相続人へと引き継がれます。つまり、共有名義にしておくと、将来の相続で持分がさらに細分化し、数次相続による権利関係の複雑化を招きやすくなります。時間が経つにつれて共有者は増え続け、最終的には誰が権利者なのかすら分からない、収拾のつかない状態に陥ります。
安易な不動産の共有名義は避けるべきです。将来的に売却や活用を少しでも考えているのであれば、遺産分割協議の段階で代表者一人の単独名義にするか、前述した換価分割を選択することを強くお勧めします。
先代名義の不動産売却で弁護士に相談すべきケース
先代名義の不動産売却は、法律や税務が複雑に絡み合う手続きです。特に、以下のような状況に当てはまる場合は、ご自身たちだけで進めるのは困難であり、早期に弁護士へ相談することを検討すべきです。
- 相続人が5人以上など多数にわたる、または面識のない親族がいる
- 相続人の中に行方不明者や連絡が取れない人がいる
- 相続人の中に認知症など判断能力に不安がある人がいる
- 遺産分割協議で意見が対立し、話がまとまらない
- 他の相続人との関係が疎遠、または険悪で直接話したくない
弁護士にご依頼いただければ、以下のような形で包括的なサポートが可能です。
- 職務上請求等による戸籍収集と正確な相続人調査の代行
- あなたの代理人として他の相続人との交渉
- 法的に有効な遺産分割協議書の作成
- 話し合いで解決しない場合の遺産分割調停・審判の代理
遺産分割で争いが生じた場合、当事者同士の話し合いでは感情的な対立が激化し、解決が遠のいてしまうことも少なくありません。法律の専門家である弁護士が間に入ることで、冷静かつ法的な根拠に基づいた話し合いを進め、円満な解決へと導くことができます。
虎ノ門法律経済事務所柏支店では、不動産問題と相続問題を重点的に取り扱っており、これまでにも数多くの複雑な相続案件を解決してまいりました。初回のご相談は1時間無料でお受けしておりますので、「何から手をつけていいか分からない」「自分のケースは弁護士に相談すべきか」とお悩みの方は、どうぞお一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。
虎ノ門法律経済事務所柏支店では相続トラブルに注力しています。
遺産分割協議、遺留分侵害額請求、遺言無効等に広く対応しております。
複雑化しやすい収益物件や非上場会社を巡る相続トラブルも複数扱っており、対応可能です。
地元の法律事務所として、誠実に、円満な解決へと導きます。
相続登記の義務化とは?いつから?先代の不動産はどうする?弁護士が解説
2024年4月開始!相続登記の義務化とは?
「親から相続した実家が、まだ亡くなった親の名義のままになっている」「そういえば、祖父名義の土地があると聞いたことがある」…。もし、このような状況に心当たりがあるなら、決して他人事ではありません。2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。これは、不動産を相続したすべての方に関わる、非常に重要な法改正です。
これまで任意であった相続登記がなぜ義務になったのでしょうか。その背景には、所有者が分からなくなった土地が全国で増え続け、社会問題となっている「所有者不明土地問題」があります。この問題を解消するため、国が本腰を入れてルールを変更したのです。
この新しい制度について、まずは最も重要な3つのポイントから押さえていきましょう。
ポイント1:いつまでに登記が必要?「3年の期限」
相続登記の義務化で最も重要なのが、「3年以内」という期限が設けられた点です。具体的には、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内」に相続登記を申請しなければなりません。
「まだ遺産分割の話し合いがまとまっていないから大丈夫」というわけではありません。話し合いが長引いている間に、どう対応すべきかという問題が生じます。この点については、後ほど詳しく解説します。
ポイント2:登記しないとどうなる?「10万円以下の過料」
もし、正当な理由なく3年の期限内に相続登記の申請を怠った場合、10万円以下の過料(かりょう)という罰則が科される可能性があります。過料とは、行政上の秩序を維持するために科される金銭的な制裁で、刑罰である罰金とは異なります。
ただし、期限を1日でも過ぎたら即座に過料が科される、というわけではありません。まずは法務局から登記をするよう催告があり、それでも応じない場合に、裁判所が過料を決定する流れとなります。
また、登記ができないことに「正当な理由」があれば、過料の対象外となります。法務省によると、以下のようなケースが「正当な理由」に当たるとされています。
- 相続人が極めて多数にのぼり、戸籍謄本等の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース
- 遺言の有効性や遺産の範囲について、相続人間で争いがあるケース
- 申請義務を負う相続人自身に、重病などの事情があるケース
とはいえ、「仕事が忙しい」「手続きが面倒」といった理由は正当な理由とは認められにくいため、注意が必要です。
ポイント3:過去の相続も対象!いつまでに対応すべき?
「この法律は最近できたのだから、何十年も前に亡くなった祖父の代の相続には関係ないだろう」と思われるかもしれませんが、それは大きな誤解です。この義務化は、2024年4月1日より前に発生した相続にも適用されます。
つまり、何代も前から名義変更されずに放置されている不動産も、すべて義務化の対象となるのです。
ただし、過去の相続については経過措置が設けられています。施行日である2024年4月1日から3年間の猶予期間があり、2027年3月31日までに相続登記を行えばよいことになっています。これは、準備に時間がかかるであろうことへの配慮ですが、決して時間に余裕があるわけではありません。特に先代名義の不動産は、関係者が多く調査に時間がかかるため、早めに行動を開始することをお勧めします。
より詳しい制度の概要については、法務省のウェブサイトもご参照ください。
【ケース別】遺産分割協議が未了の場合の対処法
相続登記義務化の期限が迫る中で、多くの方が頭を悩ませるのが「遺産分割協議がまとまらない」という状況ではないでしょうか。相続人間で意見が対立したり、連絡が取れない人がいたりと、協議が進まないケースは少なくありません。この相続登記の義務化と遺産分割に関する問題は密接に関連しています。
しかし、ご安心ください。そのような状況を想定し、法律は2つの対処法を用意しています。どちらも一長一短があるため、ご自身の状況に合わせて最適な方法を選択することが重要です。
対処法1:相続人申告登記で、まず義務を履行する
遺産分割協議が3年以内にまとまりそうにない、という場合に最も有効なのが、2024年4月1日から新設された「相続人申告登記」という制度です。
これは、登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自らがその相続人であることを法務局に申し出る手続きです。この申出を行えば、個別の相続登記の申請義務を果たしたものとみなされます。つまり、ひとまず過料の心配がなくなるというのが最大のメリットです。
手続きも比較的簡便で、相続人の一人から単独で申し出ることが可能です。戸籍謄本など、自分が相続人であることが分かる書類を提出するだけで済みます。
ただし、これはあくまで応急処置に過ぎない点を理解しておく必要があります。相続人申告登記は、権利関係を確定させるものではないため、この登記がされていても不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりすることはできません。最終的に遺産分割協議が成立したら、その日から3年以内に、改めて正式な相続登記(所有権移転登記)を行う必要があります。
対処法2:法定相続分で一旦登記する
もう一つの選択肢は、遺産分割協議の結果を待たずに、民法で定められた「法定相続分」に基づいて相続人全員の共有名義で登記する方法です。これも相続人の一人から申請することができます。
この方法のメリットは、権利関係が公示されるため、相続人の一人が勝手に自分の持分だけを第三者に売却してしまう、といった事態を防ぎやすくなる点です。
しかし、この方法は大きなデメリットを伴います。一度共有名義にしてしまうと、その不動産を売却したり活用したりする際に、共有者全員の同意が必要になります。一人でも反対すれば、何も進められません。さらに、共有者の誰かが亡くなると、その人の相続人が新たな共有者となり、関係者がネズミ算式に増えていきます。結果として、不動産の共有名義は将来の紛争の火種となりかねません。
したがって、安易に法定相続分で登記することは、問題の先送りにしかならないケースが多く、専門家としては慎重になるべきだと考えています。もし遺産分割協議が不成立に陥っている場合は、まず相続人申告登記で義務を履行しつつ、並行して協議を進めるのが現実的な対応と言えるでしょう。
注意点:遺産分割には10年の期限も(2023年4月〜)
遺産分割協議を放置することのリスクは、相続登記の義務化だけではありません。実は、2023年4月1日の民法改正により、遺産分割にも「10年」という時間的な制約が設けられました。
これは、相続開始から10年が経過した後に行う遺産分割では、原則として「特別受益」や「寄与分」等を反映した具体的相続分は考慮されず、法定相続分または指定相続分を前提に分ける扱いになるというルールです。
例えば、「長男だけが生前に多額の援助を受けていた(特別受益)」「私が親の介護を一身に引き受けてきた(寄与分)」といった主張が、10年を過ぎると認められなくなり、不公平な結果を招く可能性があります。このルールは、相続登記義務化と相まって、問題を先送りすることの危険性を大きく高めています。遺産分割協議は、できる限り早期に妥結を目指すべきです。
【ケース別】不動産が先代・先々代名義のままの場合
「実家の土地を調べてみたら、亡くなった祖父、あるいは会ったこともない曽祖父の名義のままだった」というケースも、決して珍しくありません。このように、前の相続手続きが未了のまま次の相続が発生している状態を数次相続と呼びます。
数次相続が発生している場合、関係する相続人が数十人に膨れ上がっていることもあり、手続きは極めて複雑になります。しかし、義務化された以上、これを放置し続けることはできません。一見、途方に暮れるような状況ですが、以下のステップで一つずつ解決していくことになります。

ステップ1:現在の登記名義人と相続関係を調査する
まず最初に行うべきは、現状の正確な把握です。法務局で不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、現在の登記名義人が誰であるかを確認します。
次に、その名義人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本をすべて取得し、相続人が誰であるかを一人残らず確定させます。もし、その相続人の中にすでに亡くなっている方がいれば、さらにその方の出生から死亡までの戸籍謄本を…という作業を繰り返し、現在の相続人全員を特定します。この相続人調査は、数次相続のケースでは非常に骨の折れる作業であり、専門的な知識が不可欠です。
ステップ2:全相続人で遺産分割協議を行う
ステップ1で確定した相続人全員で、対象不動産を誰が相続するのかについて遺産分割協議を行わなければなりません。相続人が全国に散らばっていたり、中には面識のない遠い親戚が含まれていたりすることも珍しくありません。
全員の連絡先を調べ、事情を説明し、合意を取り付けるプロセスは困難を極めます。もし、一人でも連絡が取れない、あるいは協議に協力してくれない相続人がいると、話し合いだけでは解決できません。その場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるなど、法的な手続きが必要となります。このような複雑な交渉は、弁護士が代理人として間に入ることで、スムーズに進められる可能性が高まります。
ステップ3:遺産分割協議書に基づき相続登記を申請する
無事に全相続人の合意が得られたら、その内容を証明する「遺産分割協議書」を作成します。この協議書には、全相続人が署名し、実印を押印する必要があります。そして、この遺産分割協議書と、収集した膨大な戸籍謄本などの必要書類を揃えて、法務局に相続登記を申請します。
数次相続の場合、登記手続きも特殊で複雑になることが多く、専門家のサポートなしで完了させるのは非常に難しいと言えるでしょう。この一連のプロセスを乗り越えるためには、法律専門家への相談が現実的な選択肢となります。
相続登記の手続きは誰に相談すべき?
相続登記の義務化に対応するため、具体的に誰に相談・依頼すればよいのでしょうか。状況に応じていくつかの選択肢が考えられます。

自分で手続きを行う場合
最も費用を抑えられるのは、ご自身で手続きを行う方法です。メリットは、専門家への依頼費用がかからないという一点に尽きます。しかし、戸籍謄本などの必要書類の収集、遺産分割協議書の作成、法務局への登記申請書の作成と提出など、すべてご自身で行う必要があり、膨大な時間と労力がかかります。
特に、書類に不備があれば何度も法務局へ足を運ぶことになりかねません。相続関係が非常に単純で、平日に時間が確保できる方以外には、あまりお勧めできない方法です。
司法書士に依頼する場合
司法書士は「登記の専門家」です。相続登記に必要な書類の作成や、法務局への申請手続きを正確に代行してくれます。相続人間で遺産の分け方について全く争いがなく、全員の協力が得られる状況であれば、司法書士への依頼は有力な選択肢となるでしょう。
ただし、司法書士の業務は登記申請の代理や必要書類の作成等が中心です。相続人間で意見が対立しているなど紛争性がある場面では、司法書士が特定の相続人の代理人として遺産分割の交渉を行ったり、家庭裁判所での遺産分割調停・審判の代理人として活動したりすることはできません。
弁護士に依頼する場合【紛争解決まで対応】
弁護士は、相続人間の交渉や家庭裁判所での調停・審判の代理など、紛争対応を含めた法的手続きを幅広く扱うことができます。相続登記の申請手続きはもちろんのこと、その前提となる相続人間の交渉や、万が一家庭裁判所で行う遺産分割調停・審判に発展した場合の代理人活動まで、一貫して対応することが可能です。
特に、以下のようなケースでは、弁護士への相談が最適解と言えます。
- 遺産分割協議がまとまらず、揉めている
- 相続人の中に行方不明者や非協力的な人がいる
- 不動産が先代・先々代名義のまま(数次相続)で権利関係が複雑
- 他の相続人から提示された遺産分割案に納得できない
これらの状況は、単なる事務手続きではなく、法的な紛争解決の領域に入ります。最初から弁護士に依頼することで、交渉から登記までを一貫して任せられる場合があり、依頼者の方の負担を軽減できることがあります。
まとめ|相続登記の義務化は弁護士にご相談ください
2024年4月から始まった相続登記の義務化は、不動産を相続したすべての方に影響する重要なルールです。相続を知った時から3年以内という期限があり、過去の相続も対象となります。
特に、遺産分割協議がまとまらないケースや、不動産が先代名義のまま放置されているケースでは、手続きが複雑化し、ご自身だけで対応するのは非常に困難です。問題を先送りにすればするほど、相続人が増え、解決はより一層難しくなります。
相続登記の手続きや、その前提となる遺産分割協議で少しでも不安や疑問を感じたら、紛争の予防・解決の専門家である弁護士へお早めにご相談ください。当事務所では、不動産と相続問題を重点的に取り扱っており、複雑な事案にも豊富な経験とノウハウを有しております。初回のご相談は無料ですので、まずはお気軽にお問い合わせいただければと思います。
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持ち戻し免除の意思表示とは?弁護士が具体的に解説
「持ち戻し免除の意思表示」とは?制度の趣旨と効果を解説
ご家族が亡くなり相続が開始した際、特定の相続人だけが被相続人(亡くなった方)から多額の生前贈与を受けていた場合、他の相続人との間に不公平が生じることがあります。この不公平を是正するために、法律は「特別受益の持ち戻し」という制度を設けています。
しかし、被相続人が「この子には、これまでの感謝の気持ちとして財産を渡したい。遺産分割で他の子と同じように扱わないでほしい」と願うケースも少なくありません。このような被相続人の特別な意思を尊重するために存在する制度が、「持ち戻し免除の意思表示」です。
これは、特別受益の原則に対する「例外」と位置づけられ、被相続人の最終的な意思を法的に実現するための重要な手段となります。この制度を正しく理解することは、円満な遺産分割協議を進める上で極めて重要です。
前提知識:特別受益と「持ち戻し」の原則
「持ち戻し免除」を理解するためには、まずその前提となる「特別受益」と「持ち戻し」のルールを知る必要があります。
特別受益とは、一部の相続人が被相続人から受けた生前贈与や遺贈(遺言による贈与)のうち、実質的に「遺産の前渡し」と評価されるものを指します。例えば、マイホームの購入資金や事業の開業資金、高額な学費などがこれにあたることが多いです。
そして、この特別受益があった場合に、相続人間の公平を図るための計算手続きが「持ち戻し」です。具体的には、相続開始時の遺産額に特別受益の価額を加えて「みなし相続財産」を算出し、それをもとに各相続人の法定相続分を計算します。そして、特別受益を受けた相続人は、その計算された相続分から既に受け取った贈与額を差し引いた額を受け取ることになります。
この計算により、生前贈与がなかった場合と同じ公平な取り分に調整されるのです。
持ち戻し免除の意思表示が持つ2つの重要な効果
被相続人が「持ち戻しはしなくてよい」という意思表示を行い、それが法的に有効と認められた場合、主に以下の2つの重要な効果が生じます。
- 具体的相続分の計算への影響
最も直接的な効果は、遺産分割における具体的相続分の計算方法が変わることです。持ち戻しが免除されると、その特別受益は「みなし相続財産」に加算されません。つまり、その贈与は「なかったもの」として遺産分割協議が進められます。結果として、特別受益を受けた相続人は、贈与された財産を確保した上で、さらに法定相続分どおりの遺産を受け取ることが可能になる場合があります。 - 被相続人の意思の実現
「長年介護してくれた子に多くの財産を残したい」「事業を継ぐ子を経済的に支えたい」といった被相続人の個人的な想いや願いを法的に実現する効果があります。持ち戻し免除は、被相続人が自らの財産の最終的な分配について、法定相続分という画一的な基準とは異なる意思を反映させるための重要なツールなのです。
ただし、注意すべきは、この効果はあくまで相続人間の遺産分割(相続分)の計算に限られるという点です。後述しますが、相続人に最低限保障された権利である「遺留分」の計算には、原則として影響を及ぼしません。
持ち戻し免除の意思表示が認められるための要件
持ち戻し免除の意思表示は、法律上、特定の方式を要求されていません。つまり、書面である必要もなければ、決まった文言もありません。このため、意思表示はその表明の仕方によって「明示の意思表示」と「黙示の意思表示」の2つに大別されます。特に後者は、相続トラブルの火種となりやすい点に注意が必要です。

明確な意思の表明:「明示の意思表示」
「明示の意思表示」とは、被相続人の持ち戻しを免除する意思が、言葉や文章ではっきりと示されている場合を指します。相続人間の紛争を未然に防ぐためには、この方法が最も確実かつ有効です。
具体的には、以下のような書面に残すことが考えられます。
- 遺言書:遺言書の中に、「長男〇〇に対する下記贈与については、その持ち戻しを免除する。」といった一文を記載する方法です。後のトラブルを避けるため、遺言書の作成は極めて重要と言えます。
- 生前贈与契約書:贈与を行う際に作成する契約書に、持ち戻し免除の条項を盛り込む方法です。
- その他の書面:被相続人が生前に作成した手紙やメモなども、明確な意思が読み取れれば証拠となり得ます。
専門家の視点からは、証拠能力が最も高く、意思が明確に伝わる公正証書遺言の活用を強く推奨します。
言動からの推認:「黙示の意思表示」
「黙示の意思表示」とは、被相続人が「持ち戻しを免除する」と直接的な言葉や文章を残していなくても、生前の様々な事情から、その意思があったと合理的に推し量れる場合を指します。
例えば、「このお金は、お前がいつも世話をしてくれるから、そのお礼だ。他の兄弟には関係ない」といった生前の発言や、贈与に至るまでの経緯、相続人間の関係性など、あらゆる状況証拠から総合的に判断されます。
しかし、この「推認」は非常に難しく、相続人間で見解が対立しやすい最大の要因です。最終的には家庭裁判所が客観的な証拠に基づいて判断することになるため、安易に「黙示の意思表示があったはずだ」と主張することは危険を伴います。どのような事情が考慮されるのか、次章で裁判例をもとに詳しく見ていきましょう。
【裁判例で見る】黙示の持ち戻し免除が認定される判断基準
黙示の持ち戻し免除が認められるか否かは、個別の事案ごとに、様々な事情を総合的に考慮して判断されます。裁判所が特に重視する判断基準は、主に以下の3つの要素です。
判断要素1:贈与の趣旨・動機
なぜその贈与が行われたのか、その目的や動機は最も重要な判断要素です。単なる「遺産の前渡し」とは異なる、特別な趣旨が認められる場合、免除の意思が推認されやすくなります。
過去の裁判例では、以下のようなケースで黙示の意思表示が肯定される傾向にあります。
- 子の生活保障のため:相続人の一人が病気や失業などで経済的に困窮しており、その生活を支えるために行われた贈与。
- 長年の貢献に報いるため:被相続人の家業に無給で長年従事したり、手厚い介護を続けたりした相続人への感謝や報奨として行われた贈与。
- 他の相続人とのバランス:他の相続人も同様の援助(学費や結婚資金など)を受けており、その公平を図るために行われた贈与。
これらのケースでは、贈与が単なる資産の移転ではなく、被相続人の特定の意思に基づいた特別な配慮であったと評価されやすいのです。
判断要素2:贈与財産の価額と遺産総額との比較
贈与された財産の価額が、遺産全体の規模に対してどの程度の割合を占めるかも重要な判断材料となります。
例えば、遺産総額が1億円ある中で100万円の贈与があった場合、これは遺産全体から見れば比較的少額です。このようなケースでは、被相続人がこれを「遺産の前渡し」として強く意識しておらず、持ち戻しまでを考えていなかった(=免除の意思があった)と推認される可能性があります。
一方で、遺産の大部分を占めるような高額な贈与(例えば、遺産総額5000万円のうち4000万円を一人に贈与)の場合、これを持ち戻しの対象外とすると、他の相続人の取り分が著しく少なくなり、相続人間の公平を大きく害します。そのため、このような高額な贈与については、免除の意思は慎重に判断される傾向にあります。
被相続人と各相続人との生前の関係性や、相続人同士の関係も、被相続人の内心を推し量る上で考慮されます。
- 同居や介護の事実:被相続人が特定の相続人と長年同居し、身の回りの世話や介護を全面的に頼っていたという事実があれば、その貢献に報いるための贈与と評価されやすくなります。
- 精神的な支え:被相続人が他の相続人とは疎遠で、特定の相続人だけが精神的な支えとなっていた場合なども、その子を優遇したいと考える動機として考慮されることがあります。
- 相続人間の経済格差:相続人間に大きな経済格差があり、被相続人がそれを気にかけていたといった事情も、判断の一要素となり得ます。
このように、裁判所は法律の条文だけでなく、家族間の具体的な人間関係や生前の実態を丹念に見て、被相続人の真意を探ろうとするのです。

【2019年相続法改正】配偶者への居住用不動産の贈与は推定免除に
2019年7月1日に施行された改正相続法では、持ち戻し免除に関して非常に重要なルールが新設されました。それが「持ち戻し免除の意思表示の推定規定(民法903条4項)」です。
この規定は、長年連れ添った配偶者が、住み慣れた家を失うことなく、安定した老後の生活を送れるように保護することを目的としています。具体的には、以下の2つの要件を満たす場合、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしたものと「推定」されることになりました。
- 婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が、
- 他方に対し、その居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈または贈与をしたこと
この改正により、これまでは黙示の意思表示として立証する必要があったケースでも、上記の要件を満たせば、原則として持ち戻し計算が不要となり、残された配偶者の立場が法的に強く保護されることになったのです。これにより、配偶者は住み慣れた不動産を取得した上で、さらに残りの遺産についても法定相続分に応じた権利を主張しやすくなりました。
ただし、これはあくまで法律上の「推定」です。もし被相続人が持ち戻しを免除しない明確な意思を残していた場合など、特別な事情があれば、この推定が覆される可能性(反証)は残されています。
参照:法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について」
持ち戻し免除と遺留分の関係
持ち戻し免除を考える上で、最も重要かつ混同しやすいのが「遺留分」との関係です。ここで押さえるべき大原則は、ただ一つです。
「持ち戻し免除の意思表示は、遺留分の計算には影響を与えない」
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された、遺産の最低限の取り分のことです。遺言などで遺留分を侵害された場合、遺留分権利者は遺留分侵害額請求を行うことができます。
持ち戻し免除は、あくまで相続分を計算する際のルールです。被相続人が「この贈与は持ち戻ししなくてよい」と意思表示したとしても、それは相続人間の遺産分割協議の中での話に過ぎません。遺留分という最低保障ラインを侵害することはできないのです。
したがって、遺留分を計算する際の基礎となる財産には、持ち戻しが免除された特別受益の価額も含まれます。
例えば、遺産が1000万円、長男への持ち戻し免除された生前贈与が3000万円あったとします。この場合、相続分の計算では贈与は考慮されませんが、遺留分の計算では基礎財産が4000万円(1000万円+3000万円)となり、他の相続人はこれを基に自身の遺留分を主張できます。結果として、長男は他の相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があるのです。
この違いを理解しておくことは、ご自身の正当な権利を守るために不可欠です。

持ち戻し免除に関する相続トラブルと弁護士への相談
持ち戻し免除は、被相続人の意思を尊重する素晴らしい制度ですが、その意思表示が曖昧な場合には遺産分割で争いが生じる原因となりがちです。立場によって、取るべき対策や対処法は異なります。
【被相続人向け】生前にできる紛争予防策
将来、ご自身の相続で子どもたちが争うことを防ぎたいとお考えであれば、生前に明確な意思表示をしておくことが最も効果的です。
- 公正証書遺言の作成:最も確実な方法です。「どの財産を誰に、なぜ渡すのか」「その贈与の持ち戻しを免除するのか、しないのか」を明確に記載しましょう。特に、なぜ特定の相続人を優遇するのか、その理由を「付言事項」として書き添えることで、他の相続人の感情的なしこりを和らげ、納得を促す効果が期待できます。具体的な作成手順については、公正証書遺言を作成する際の具体的手順もご参照ください。
- 生前贈与契約書の活用:贈与を行う際に、持ち戻し免除の意思を明記した契約書を作成しておくことも有効な手段です。
【相続人向け】トラブル発生時の対処法
すでに相続が発生し、持ち戻し免除が争点となっている場合、ご自身の立場に応じて冷静な対応が求められます。
<黙示の意思表示を主張したい場合>
被相続人の生前の言動、贈与の経緯や目的、ご自身の貢献度(介護など)、他の相続人との関係性などを時系列で整理し、それを裏付ける客観的な証拠(日記、手紙、メール、第三者の証言など)を集める必要があります。感情的な主張だけでは、法的な場で認められることは困難です。
<相手方の主張に反論したい場合>
相手方が主張する「黙示の意思表示」に客観的な根拠が乏しいことを冷静に指摘し、安易に同意してはいけません。贈与が単なる遺産の前渡しであったことを示す事情(例えば、他の相続人も同様の贈与を期待していた等)を主張していくことになります。
いずれの立場であっても、法的な主張の組み立てと証拠収集は極めて専門的です。特に、当事者間での話し合いは感情的な対立を招きやすく、遺産分割調停などに発展することも少なくありません。問題が複雑化する前に、できるだけ早い段階で相続問題に精通した弁護士にご相談いただくことが、最善の解決への近道です。
虎ノ門法律経済事務所柏支店では、相続に関する初回のご相談は1時間無料でお受けしております。持ち戻し免除に関するお悩みや、遺産分割でお困りのことがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
虎ノ門法律経済事務所柏支店では相続トラブルに注力しています。
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複雑化しやすい収益物件や非上場会社を巡る相続トラブルも複数扱っており、対応可能です。
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遺言執行者に指定されたら?弁護士が解説
遺言執行者に指定されたら?まず考えるべき2つの選択肢
遺言書によって「遺言執行者」に指定された場合、何をすべきか分からなくなってしまうこともあると思います。遺言執行者は、故人の最後の意思を実現するという重要な役割ですが、同時に大きな責任も伴います。相続人との間で板挟みになる可能性や、複雑な手続きに追われることもあります。
遺言執行者に指定された方には、大きく分けて2つの選択肢があります。
- 就任を承諾し、遺言執行者としての職務を遂行する
- 就任を拒否(辞退)する
どちらを選ぶかは、あなたの自由な意思に委ねられています。就任を承諾すれば、遺言の内容を実現するために法的な権限と義務を負うことになります。一方、拒否することも法的に認められた正当な権利であり、何ら引け目を感じる必要はありません。
この記事では、虎ノ門法律経済事務所柏支店の弁護士が、遺言執行者という立場に置かれた方が適切な判断を下せるよう、それぞれの選択肢について法的な観点から分かりやすく解説します。就任を拒否する場合の手続きから、就任した場合の具体的な職務内容、トラブルを避けるための要点、そして報酬に至るまで、あなたが抱える疑問や不安を解消するための一助となれば幸いです。遺言に関する問題の全体像については、遺言に関する問題で体系的に解説していますので、併せてご参照ください。
遺言執行者の就任は拒否できる?辞退と辞任の違い
「遺言執行者への就任を断ることはできるのだろうか?」これは、多くの方が最初に抱く疑問でしょう。結論から申し上げますと、遺言執行者への就任は、理由を問わず自由に拒否(辞退)できます。
しかし、ここで極めて重要な注意点があります。それは、就任を一度承諾した後に「やはり辞めたい」と考える「辞任」と、就任前に断る「辞退(拒否)」とでは、法的なハードルが全く異なるという点です。この違いを理解しないまま安易に就任を承諾してしまうと、後で取り返しのつかない事態になりかねません。
就任前の「辞退(拒否)」は理由なく自由に行える
遺言で一方的に指定されたとしても、あなたには遺言執行者になることを強制される義務はありません。民法上も、就任を承諾するかどうかは自由とされています。
就任を拒否する際に、相続人に対して法的な「理由」を説明する必要もありません。「仕事が多忙で時間が取れない」「相続に関する知識がなく自信がない」「相続人と良好な関係を築ける自信がない」といった個人的な事情で十分です。
ただし、あなたが就任を拒否する意思を明確に示さないと、相続人たちは手続きを進めることができません。そのため、実務上は、相続人全員に対して「遺言執行者に就任しない」という旨を通知するのが望ましいでしょう。口頭で伝えても構いませんが、後のトラブルを防ぐためには、内容証明郵便などで書面にて通知しておくのが最も確実です。
【通知書の文例】
遺言執行者就任辞退通知書
相続人 各位
私は、故〇〇〇〇様が作成された令和〇年〇月〇日付の遺言書において遺言執行者に指定されましたが、今般、遺言執行者に就任することを拒否(辞退)いたしますので、本書面をもって通知いたします。
令和〇年〇月〇日
(住所)
(氏名) 印

就任後の「辞任」には家庭裁判所の許可が必要
就任前の「辞退」が自由である一方、一度就任を承諾した後に任務を放棄する「辞任」のハードルは格段に上がります。一度遺言執行者の役割とその責任を担うと決めた以上、簡単にその職を投げ出すことは許されません。
遺言執行者を辞任するためには、家庭裁判所に申立てを行い、許可を得る必要があります。そして、その許可を得るためには「正当な事由」(例:重い病気、遠方への転勤など)の存在を裁判所に認めてもらわなければなりません。
【正当な事由の例】
- 重い病気や怪我で長期の療養が必要になった
- 遠方への転勤が決まり、職務の遂行が物理的に困難になった
- 高齢により心身の能力が衰え、複雑な手続きへの対応が難しくなった
単に「相続人との意見が合わず、面倒になった」「思っていたより手続きが複雑だった」といった理由だけでは、正当な事由とは認められない可能性が高いでしょう。
このように、「辞退」と「辞任」は似ているようで全く異なります。最初の意思表示がいかに重要か、お分かりいただけたかと思います。少しでも不安がある場合は、安易に就任を承諾せず、まずは専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
就任した場合の職務と紛争回避のポイント
就任を承諾した場合、あなたは遺言の内容を実現するため、速やかに職務を開始しなければなりません。その職務は多岐にわたり、専門的な知識が要求される場面も少なくありません。ここでは、主な職務内容と、弁護士が最も重視する紛争回避のポイントについて解説します。
遺言執行者は、民法上「善良な管理者の注意をもって、その職務を行わなければならない」と定められており(善管注意義務)、この義務に違反して相続人に損害を与えた場合は、損害賠償責任を負う可能性もあります。この遺言執行者の職務と義務を正しく理解することが、トラブルを未然に防ぐ第一歩です。
(参考:法務省「遺言執行者の権限の明確化等」)
主な職務内容と一般的な流れ
遺言執行者の職務は、概ね以下の流れで進みます。
- 相続人の調査・確定:戸籍謄本等を取り寄せ、相続人が誰であるかを正確に確定させます。
- 就任通知と遺言内容の開示:全ての相続人に対し、遺言執行者に就任した旨と遺言書の内容を通知します。
- 相続財産の調査と財産目録の作成・交付:預貯金、不動産、有価証券など、故人の財産を全て調査し、財産目録を作成して相続人に交付します。
- 遺言内容に沿った各種手続き:預貯金の解約・分配、不動産の相続登記手続き、株式の名義変更など、遺言の内容を実現するための具体的な手続きを行います。
- 業務完了報告:全ての職務が完了したら、相続人に対して業務の経過と結果を報告します。

相続トラブルを防ぐための3つの鉄則
遺言執行者の職務を遂行する上で、最も避けたいのが相続人間のトラブルです。弁護士として数多くの相続案件に関わってきた経験から、紛争を未然に防ぐために不可欠な「3つの鉄則」をお伝えします。
- 徹底した情報開示と透明性の確保
相続人が不信感を抱く最大の原因は「情報不足」です。「遺言執行者は一体何をしているのか」「財産を隠しているのではないか」といった疑念は、トラブルの火種となります。これを防ぐためには、定期的に進捗状況を報告し、財産目録や手続きに関する書類の写しを共有するなど、徹底して業務の透明性を確保することが重要です。 - 全相続人に対する公平・中立な姿勢の維持
遺言執行者は、特定の相続人の味方ではありません。あくまで故人の意思を実現するための中立的な立場です。一部の相続人から頻繁に連絡があるからといって、その相続人にだけ有利な情報を提供したり、他の相続人からの問い合わせを疎かにしたりしてはいけません。全ての相続人に対して、常に公平かつ誠実な対応を貫く姿勢が、信頼関係の構築に繋がります。 - 専門家への早期相談・連携
手続きで行き詰まった時や、相続人間で意見の対立が生じ始めた時、「自分だけで何とかしよう」と抱え込むのは危険です。法的な判断が難しい問題や、感情的な対立が激化しそうな場合は、迷わず弁護士などの専門家に相談してください。早期に専門家が介入することで、問題が複雑化する前に対処でき、円満な解決に導ける可能性が高まります。
困ったときは弁護士へ相談を
遺言執行者の職務は、想像以上に専門的な知識と精神的な負担を伴うものです。「故人のために」という気持ちだけで安易に引き受けてしまうと、相続人間の対立に巻き込まれたり、慣れない手続きに疲弊してしまったりするケースも少なくありません。
もしあなたが、
- 遺言執行者に指定されたが、就任すべきか迷っている
- 相続人同士の関係が良くなく、トラブルが予想される
- 相続財産の種類が多く、手続きが複雑で手に負えない
- 就任したものの、相続人から不当な要求をされて困っている
といった状況にあるのなら、一人で抱え込まずに、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
弁護士にご依頼いただければ、あなたの代理人として、複雑な財産調査や各種手続きを可能な範囲で代行し、必要に応じて手続きの進め方を整理してサポートすることができます。専門家が介入することで、あなた自身の精神的な負担を大幅に軽減できるというメリットがあります。
虎ノ門法律経済事務所柏支店では、注力分野(相続・不動産・離婚男女問題)について、基本的に初回のご相談は1時間無料としておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。あなたの不安を解消し、最善の道筋を見つけるお手伝いをさせていただきます。
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遺言執行者の職務と義務【民法条文で弁護士が解説】
遺言執行者の役割とは?民法改正で立場が明確化
遺言書に「遺言執行者」という記載があった場合、その人物は一体どのような役割を担うのでしょうか。遺言執行者とは、その名の通り、遺言に書かれた内容を、亡くなった遺言者に代わって実現する重要な役割を持つ人物です。相続手続きは複雑で、利害関係が対立することも少なくありません。そのような状況下で、遺言者の最後の意思を円滑かつ正確に実現するために、遺言執行者は存在します。
特に、2019年7月1日に施行された改正民法は、遺言執行者の立場を大きく変えました。この改正は、遺言執行をより確実なものにするための重要な一歩であり、その職務と義務を理解する上で欠かせない前提知識となります。遺言の全体像については、遺言に関する問題で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。
遺言執行者の基本的な役割(民法第1012条)
遺言執行者の基本的な役割は、民法第1012条1項で明確に定められています。
(遺言執行者の権利義務)第1012条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
この条文が示すように、遺言執行者は、遺言者の最終意思を法的に実現するため、預貯金の解約や不動産の名義変更、株式の移管手続きなど、相続財産の管理・処分に関する広範な権限と、それを誠実に遂行する義務を負っています。いわば、遺言者の意思を法的に実現するために、遺言の内容の範囲内で必要な手続きを進める役割を担うのです。この遺言執行者の役割があるからこそ、遺言は単なる紙切れで終わらず、法的な効力を持って実現されるのです。
【民法改正】「相続人の代理人」からの脱却
実は、法改正前の民法では、遺言執行者は「相続人の代理人とみなす」と規定されていました。この規定が、時として遺言の円滑な執行を妨げる一因となっていたのです。
例えば、特定の相続人に多くの財産を遺すという遺言内容が、他の相続人の意向と対立するケースを考えてみましょう。この場合、遺言執行者が「相続人全員の代理人」であるとすると、一部の相続人の反対によって身動きが取れなくなる可能性がありました。遺言者の意思と、一部相続人の利益が相反した場合に、板挟みになってしまう構造的な問題を抱えていたのです。
この問題を解消するため、2019年の民法改正で「相続人の代理人とみなす」という規定は削除されました。これにより、遺言執行者は相続人の意向に左右されることなく、あくまでも遺言者の意思を実現するという中立的かつ独立した立場で職務を遂行できることが明確化されたのです。これは、遺言執行者の権限を強化し、その使命を全うしやすくするための極めて重要な変更点といえます。
民法に定められた遺言執行者の4大義務
遺言執行者は強力な権限を持つ一方で、その職務を遂行するにあたり、民法で定められた重い義務を負っています。これらの義務は、遺言執行の透明性を確保し、相続人の権利を守るために不可欠なものです。ここでは、遺言執行者が負う主要な4つの義務について、根拠となる条文と共に解説します。

① 任務開始と相続人への通知義務(民法第1007条)
遺言執行者として指定され、その就任を承諾した場合、まず初めに行うべきことが定められています。民法第1007条には、以下の通り規定されています。
(遺言執行者の任務の開始)第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
「直ちにその任務を行わなければならない」とは、就任後、速やかに遺言執行手続きに着手する義務があることを意味します。そして、より重要なのが第2項の「通知義務」です。
この通知は、相続人が知らない間に手続きが進んでしまう事態を防ぎ、相続人に遺留分侵害額請求などの正当な権利を行使する機会を保障するために極めて重要です。通知の対象は、遺産を受け取る相続人はもちろん、遺言によって財産をもらえない相続人も含めた「すべての法定相続人」です。この最初のステップを確実に行うことが、後のトラブルを未然に防ぐ第一歩となります。
② 相続財産目録の作成・交付義務(民法第1011条)
次に課されるのが、相続財産の全体像を正確に把握し、それを書面で明確にする義務です。民法第1011条には次のように定められています。
(相続財産の目録の作成)第1011条
1 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
遺言執行者は、預貯金、不動産、有価証券といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含めてすべて調査し、「財産目録」を作成しなければなりません。そして、完成した財産目録は、相続人全員に交付する必要があります。
この義務は、遺言執行の透明性を担保する上で非常に重要です。財産の全体像が明確になることで、相続人は自身の権利を正確に把握できますし、遺言執行者による財産の隠匿や不正利用といった疑念を防ぐことにも繋がります。相続人からの信頼を得て、円滑に職務を進めるための基礎となる作業です。より具体的な手順については、財産目録の作成手順と漏れを防ぐためのコツをご覧ください。
③ 善管注意義務(民法第1012条3項、第644条)
遺言執行者は、相続財産を管理するにあたり、注意義務が求められます。これを法的に「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」と呼びます。民法第1012条3項は、委任に関する規定である第644条を準用しており、そこに善管注意義務が定められています。
(受任者の注意義務)第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
これは、「その人の職業や社会的地位に応じて、客観的にみて通常期待されるレベルの注意を払う義務」を意味します。例えば、相続財産である建物の管理を怠り、雨漏りで価値を下げてしまったり、必要な手続きを不当に遅延させて相続人に不利益を与えたりすることは、この義務に違反する可能性があります。特に、弁護士などの専門家が遺言執行者に就任した場合は、一般の方よりもさらに高度な注意義務が課されると解されています。
④ 終了時の報告義務(民法第1012条3項、第645条)
遺言に定められたすべての手続きが完了した際にも、最後の重要な義務が残っています。民法第1012条3項が準用する第645条には、任務完了時の報告義務が規定されています。
(受任者による報告)第六百四十五条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
遺言執行者は、任務が完了したら、遅滞なくその経過と結果を相続人に報告しなければなりません。実務上は、どの財産を誰に引き渡したのか、どのような経費がかかったのかなどを詳細に記載した「業務完了報告書」を作成し、通帳のコピーなどの関連資料を添えて相続人全員に送付するのが一般的です。この報告をもって、遺言執行者の一連の任務は正式に完了し、その重い責任から解放されることになります。まさに、業務の総仕上げといえる重要な義務です。
遺言執行者の権限の範囲と限界
遺言執行者は、遺言を実現するために強力な権限を与えられていますが、その権限は決して万能ではありません。「できること」と「できないこと」の境界線を正しく理解することは、遺言執行者自身にとっても、相続人にとっても、無用なトラブルを避けるために不可欠です。

相続人の行為を制限する効力(民法第1013条)
遺言執行者の権限の中でも特に強力なのが、相続人の行為を法的に制限する効力です。民法第1013条には、次のように定められています。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。(以下略)
これは、遺言執行者がいる間は、相続人が勝手に遺産である預貯金を引き出したり、不動産を売却したりする行為は許されないということを意味します。もし相続人がこのような行為を行った場合、その行為は原則として「無効」となります。遺言執行という重要な任務が、一部の相続人の身勝手な行動によって妨害されるのを防ぐための強力な規定です。ただし、事情を知らない第三者(善意の第三者)が関与している場合は、その取引の無効を主張できないこともあるため、注意が必要です。もし遺言内容に納得できない場合でも、独断で財産を処分する行為は避けるべきです。
第三者への任務の委託(復任権)(民法第1016条)
遺言執行者は、その任務のすべてを一人で抱え込む必要はありません。民法第1016条では、自己の責任において第三者に任務の一部を委託する「復任権」が認められています。
(遺言執行者の復任権)第1016条 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、この限りでない。
かつての民法では「やむを得ない事由」がなければ第三者への委託は認められませんでしたが、法改正により、原則として遺言執行者の判断で自由に専門家などの力を借りることが可能になりました。例えば、不動産の相続登記は司法書士に、相続税の申告は税理士に、といった形で、各分野の専門家に業務を依頼することで、より迅速かつ正確に遺言執行を進めることができます。
遺言執行者の権限が及ばないこと
遺言執行者の権限は、あくまで「遺言の内容を実現するために必要な範囲」に限られます。したがって、遺言書に記載されていない財産については、遺言執行者は関与できません。そのような財産は、相続人全員による遺産分割協議によって分け方を決める必要があります。
また、相続人間の個人的な感情のもつれや、遺言内容とは直接関係のない紛争に介入することも、遺言執行者の権限外です。
義務違反した場合の責任と解任手続き
もし遺言執行者がその重い義務を果たさなかった場合、どうなるのでしょうか。相続人は、義務違反をした遺言執行者に対して、法的な責任を追及することができます。これは相続人自身の権利を守るための重要な知識であると同時に、遺言執行者に就任する方にとっては、その責任の重さを再認識する機会となるでしょう。
相続人に対する損害賠償責任
遺言執行者が、前述した善管注意義務などに違反し、その故意または過失によって相続人に損害を与えた場合、損害賠償責任を負う可能性があります。これは、民法の不法行為(第709条)や債務不履行(第415条)といった規定に基づくものです。
任務の懈怠が相続人の金銭的な不利益に直結した場合、その損害を賠償する責任が生じ得るのです。
家庭裁判所への解任請求(民法第1019条)
遺言執行者の任務懈怠が著しい場合や、その他正当な理由がある場合には、金銭的な賠償だけでなく、その職務から解任させることも可能です。民法第1019条は、利害関係人(相続人など)による解任請求について定めています。
(遺言執行者の解任)第1019条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
「任務を怠ったとき」の具体例としては、正当な理由なく財産目録の作成・交付をしない、相続人からの報告要求を無視する、などが挙げられます。「その他正当な事由」には、長期にわたり任務遂行が不可能になった場合や、財産を私的に流用しようとするなど、著しく不適切な行動が発覚した場合などが含まれます。
重要なのは、解任は相続人が一方的にできるものではなく、必ず家庭裁判所に申し立て、審判という法的な手続きを経る必要があるという点です。解任を検討するような事態に至った場合は、その手続きや証拠収集のためにも、速やかに弁護士に相談することが賢明です。
まとめ|遺言執行者の職務は弁護士への相談が安心
この記事では、遺言執行者の職務と義務について、民法の条文を基に解説してきました。遺言執行者は、遺言者の最終意思を実現するという重要な使命を帯び、そのために強力な権限が与えられています。同時に、任務開始の通知から財産目録の作成、善管注意義務、任務完了の報告に至るまで、法律で厳格に定められた重い義務を負っています。
特に2019年の民法改正により、その立場は「相続人の代理人」から脱却し、より中立的かつ独立した存在として、遺言内容の実現に専念できる環境が整いました。
しかし、これらの職務は法律や税務の専門知識を要する場面が多く、相続人間の感情的な対立に巻き込まれる可能性も少なくありません。個人の方が遺言執行者となり、これらすべての責任を一人で背負うことは、精神的にも時間的にも大きな負担となり得ます。
もしあなたが遺言執行者に指定されて不安を感じている場合、あるいはこれから作成する遺言の執行者に誰を指定すべきか悩んでいる場合は、相続問題に精通した弁護士にご相談ください。専門家を遺言執行者に指定する、あるいは執行者としての業務をサポートさせていただくことで、手続きの正確性と円滑性を確保し、将来のトラブルを未然に防ぐことが可能になります。
当事務所では、遺言執行に関するご相談にも対応しております。どうぞお気軽にお問い合わせください。
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遺産分割協議、遺留分侵害額請求、遺言無効等に広く対応しております。
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代襲相続と数次相続の違い|弁護士が図解で徹底解説
代襲相続と数次相続|最大の違いは「死亡の時期と順番」です
ご親族が亡くなられ、相続の手続きを進める中で、「相続人となるはずだった人も、すでに亡くなっている」という複雑な状況に直面し、頭を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。「代襲相続」や「数次相続」といった聞き慣れない言葉を前に、誰が相続人で、どう手続きを進めればよいのか、不安に感じておられるかもしれません。
しかし、ご安心ください。これら二つの制度は、一見すると複雑に思えますが、その違いは極めてシンプルです。最大の違いは、相続人となるはずだった方が「被相続人(亡くなった方)より先に亡くなったか、後に亡くなったか」という、ただ一点、死亡の時期と順番にあります。
この根本的な違いさえ押さえれば、誰が相続人になるのか、どのような手続きが必要になるのか、という疑問が整理されていくはずです。

この記事では、相続問題に精通した弁護士が、代襲相続と数次相続の本質的な違いから、相続人の範囲、税金への影響、そして実務上の注意点まで、図解を交えながら分かりやすく解説します。まずは、この「死亡の順番」という基本原則を念頭に、読み進めてみてください。
【図解】代襲相続とは?発生要件と相続人の範囲
代襲相続とは、本来、相続人となるはずだった被相続人の子や兄弟姉妹が、相続の開始以前に亡くなっていた場合に、その人の子ども(被相続人から見て孫や甥・姪)が代わりに相続人の地位を引き継ぐ制度を指します。相続の全体像については、法定相続人の範囲で体系的に解説していますので、併せてご覧ください。
要件①:被相続人より「先に」相続人が死亡している
代襲相続が発生するための絶対的な条件は、被相続人が亡くなるよりも「前」に、相続人となるべき子や兄弟姉妹が亡くなっていることです。つまり、被相続人が亡くなった時点(相続が開始した時点)で、すでに本来の相続人がこの世にいない、という状況が前提となります。
この「死亡の順番」が、後述する数次相続との決定的な違いになります。なお、法律上は、相続人が相続欠格(重大な非行など)に該当したり、廃除(被相続人の意思で相続権を剥奪)されたりした場合も代襲相続は発生しますが、実務上ほとんどは「死亡」が原因となります。
要件②:代襲できるのは「子・孫」と「甥・姪」のみ
代襲相続によって相続人になれる人の範囲は、亡くなった本来の相続人(被代襲者)が誰であったかによって決まります。これには明確なルールが存在します。
パターン1:亡くなったのが被相続人の「子」の場合
この場合、その子の子、つまり被相続人から見て「孫」が代襲相続人となります。さらに、もし孫もすでに亡くなっている場合は、その子である「ひ孫」が再び代襲する「再代襲」が認められます。このように、直系卑属である子孫については、代々相続権が引き継がれていきます。
パターン2:亡くなったのが被相続人の「兄弟姉妹」の場合
この場合、その兄弟姉妹の子、つまり被相続人から見て「甥・姪」が代襲相続人となります。しかし、ここで注意が必要です。甥や姪がすでに亡くなっていたとしても、その子どもがさらに代襲する「再代襲」は認められていません。代襲できるのは一代限りです。

なお、重要な注意点として、本来の相続人が相続放棄をした場合は、その人は初めから相続人ではなかったとみなされるため、代襲相続は発生しません。その人の子が代わりに相続人になることはないのです。
【図解】数次相続とは?発生要件と相続人の範囲
数次相続は、代襲相続の「世代交代」とは異なり、「相続権の承継」というイメージで捉えると理解しやすくなります。ある相続(一次相続)が発生した後、遺産分割協議などが終わらないうちに相続人の一人が亡くなってしまい、次の相続(二次相続)が開始される状態を指します。この場合、亡くなった相続人が持っていた「一次相続における相続権」が、その人の相続人(二次相続の相続人)に引き継がれるのです。
この結果、遺産分割協議には、本来の血縁関係者だけでなく、後から関係者となった人物も参加することになり、遺産分割協議書の作成などが複雑化する傾向にあります。
要件:被相続人より「後に」遺産分割未了のまま相続人が死亡
数次相続が発生する条件は、以下の時系列で整理できます。
- 被相続人Aが死亡する(一次相続の開始)
- 遺産分割協議や手続きが完了しない間に
- 相続人Bが死亡する(二次相続の開始)
ここでのキーポイントは、「遺産分割未了」という点です。もし、一次相続の遺産分割が完了し、相続人Bが財産を確定的に取得した後に亡くなったのであれば、それは単にB自身の財産についての二次相続が起こるだけで、数次相続とは呼びません。遺産分割がまとまらず、権利が確定しないまま次の相続が発生してしまうことで、遺産分割協議が不成立となり、問題が複雑化するのです。
相続人の範囲:亡くなった相続人の「配偶者や子」が権利を承継
数次相続における相続人の範囲は、代襲相続との違いが最も顕著に現れる部分です。具体例で見てみましょう。
祖父Aが亡くなり(一次相続)、その遺産分割協議中に父Bが亡くなった(二次相続)とします。この場合、父Bが持っていた「祖父Aの遺産を相続する権利」は、父Bの相続人である母C(父Bの配偶者)と子D(Aの孫)に引き継がれます。

その結果、母Cと子Dは、祖父Aの遺産分割協議に当事者として参加する権利と義務を負うことになります。代襲相続では相続人にならなかった「子の配偶者」が、数次相続では当事者として登場するのです。これにより、もともとの相続関係者とは面識がなかったり、関係性が薄かったりする人物が協議のテーブルにつくことになり、遺産分割に関する問題がより複雑化する一因となります。
相続税への影響は?代襲相続と数次相続の税務上の違い
相続で問題になるのは、誰が相続人になるかという権利関係だけではありません。最終的に「税金をいくら納めるのか」という税務上の問題も極めて重要です。代襲相続と数次相続では、相続税の計算方法に大きな違いが生じます。
基礎控除額:代襲相続では増えるが、数次相続では増えない
相続税には「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という基礎控除額があり、遺産総額がこの範囲内であれば相続税はかかりません。
代襲相続の場合、法定相続人の数が増える可能性があります。例えば、被相続人の子が1人亡くなり、その子(被相続人の孫)2人が代襲相続人となった場合、法定相続人は1人から2人に増えます。これにより基礎控除額が600万円増え、結果的に節税につながることがあります。
一方、数次相続では、一次相続における法定相続人の数は変わりません。あくまで一次相続の開始時点で法定相続人は確定しているため、その後に相続人が亡くなっても基礎控除額は増えないのです。
手続き上の注意点と弁護士に相談すべき理由
代襲相続や数次相続が発生した場合、ご自身たちだけで手続きを進めるのは極めて困難です。なぜなら、通常とは比較にならないほど手続きが複雑化し、思わぬ落とし穴が潜んでいるからです。
注意点①:相続人の確定だけで膨大な戸籍収集が必要になる
相続手続きの第一歩は、誰が相続人なのかを確定させることです。そのためには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を取り寄せる必要があります。しかし、代襲相続や数次相続では、それに加えて亡くなった相続人(被代襲者や被数次相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本等もすべて集めなければなりません。
転籍や婚姻を繰り返している方の場合、収集すべき戸籍は全国の役所に散らばり、数十通に及ぶことも珍しくありません。この相続人調査と戸籍収集だけで多大な時間と労力を要し、一般の方が途中で挫折してしまうケースも少なくないのです。より具体的な手順については、相続人調査と戸籍謄本を取り寄せる具体的手順をご覧ください。
注意点②:面識のない親族と遺産分割協議が必要になる
代襲相続や数次相続の最大の問題点は、人間関係の複雑化です。数次相続によって相続人となった「亡き兄弟の配偶者」や、代襲相続で相続人となった「会ったこともない甥や姪」など、これまで全く交流のなかった親族と、財産というデリケートな問題について直接話し合わなければなりません。
お互いの状況や考えが分からないため、感情的な対立が生まれやすく、遺産分割で争いに発展しがちです。このような状況では、法律の専門家である弁護士が代理人として間に入ることで、冷静かつ公平な話し合いを進め、円満な解決を目指すことが可能になります。
注意点③:代襲と数次が重なる複合ケースは特に専門家の助言が不可欠
実務では、代襲相続と数次相続が同時に発生する、さらに複雑なケースも存在します。例えば、祖父Aが亡くなり、その子BはAより先に死亡(代襲相続発生)、別の子CはAの死後、遺産分割が終わらないうちに死亡した(数次相続発生)といった場合です。
このような複合ケースでは、誰が最終的な相続人となり、それぞれの法定相続分がどうなるのかを正確に把握するだけでも、高度な専門知識が要求されます。権利関係を誤って認識したまま手続きを進めてしまうと、後々、遺産分割協議が無効になるなど、取り返しのつかない事態になりかねません。このような状況では、迷わず専門家である弁護士に相談することが賢明な判断です。
まとめ|複雑な相続問題は虎ノ門法律経済事務所にご相談ください
今回は、代襲相続と数次相続という二つの複雑な相続形態について解説しました。最後に、重要なポイントを振り返ります。
- 最も重要な違い:相続人が被相続人より「先」に亡くなったのが代襲相続、「後」に亡くなったのが数次相続です。
- 相続人の範囲:代襲相続では孫や甥・姪が、数次相続では亡くなった相続人の配偶者や子が登場します。
- 税金・手続きへの影響:基礎控除額や控除制度、必要書類、協議の当事者が大きく異なり、手続きは格段に複雑化します。
代襲相続や数次相続が発生した相続は、時間が経てば経つほど関係者が増え、話し合いがまとまりにくくなる傾向があります。少しでも「手続きが複雑だ」「自分たちだけでは手に負えない」と感じたら、できるだけ早く専門家にご相談ください。
私たち虎ノ門法律経済事務所柏支店は、相続問題の解決に注力しており、複雑に絡み合った権利関係を法的に整理し、ご依頼者様にとって最善の解決策をご提案します。初回のご相談は1時間無料としておりますので、一人で悩まず、まずは私たち専門家の意見を聞いてみませんか。平日お忙しい方のために土曜日も営業しておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
虎ノ門法律経済事務所柏支店では相続トラブルに注力しています。
遺産分割協議、遺留分侵害額請求、遺言無効等に広く対応しております。
複雑化しやすい収益物件や非上場会社を巡る相続トラブルも複数扱っており、対応可能です。
地元の法律事務所として、誠実に、円満な解決へと導きます。
