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遺留分侵害額請求とは?まず押さえるべき基本
ご家族が亡くなった後、遺言書の内容や生前贈与によってご自身の受け取る遺産が想定外に少ない、あるいは全くないという状況に直面し、納得できない思いをされている方もいらっしゃるかもしれません。そのような場合に、法律は一定の相続人に対して、最低限の遺産の取り分を保障しています。これが「遺留分」です。
遺留分を侵害された相続人は、遺産を多く受け取った他の相続人や受遺者(遺贈を受けた人)に対して、侵害された分を金銭で支払うよう請求できます。この手続きを「遺留分侵害額請求」といいます。
この記事では、遺留分侵害額請求の具体的な手続きの流れ、必要書類、そして費用について、3つのフェーズに分けて網羅的に解説します。相続問題に初めて直面する方でも全体像を掴めるよう、基本から丁寧にご説明しますのでご安心ください。このテーマの全体像については、遺留分侵害額請求に関する問題で体系的に解説しています。
遺留分とは最低限保障される遺産の取り分
「遺留分」とは、被相続人(亡くなった方)の意思(遺言など)に関わらず、法律によって兄弟姉妹以外の法定相続人に保障された遺産の最低取得分を指します。この制度は、遺された家族の生活保障や、相続人間の公平を図る目的で設けられています。
したがって、たとえ遺言書に「全財産を長男に相続させる」と書かれていたとしても、他の相続人(例えば配偶者や次男)は、自身の遺留分を主張することが可能です。遺留分が認められる相続人と、認められない相続人は以下の通りです。
| 遺留分の権利 | 該当する相続人 |
|---|---|
| あり | 配偶者、子(またはその代襲相続人)、直系尊属(父母や祖父母) |
| なし | 兄弟姉妹(またはその代襲相続人) |
遺留分を請求できる相続人とその割合
遺留分の割合は、誰が相続人になるかによって変わります。まず、相続人全体で保障される「総体的遺留分」があり、それを各相続人の法定相続分に応じて按分したものが「個別的遺留分」となります。
| 相続人の組み合わせ | 総体的遺留分(全体) | 個別的遺留分(一人あたり) |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 遺産の1/2 | 配偶者:1/2 |
| 子のみ | 遺産の1/2 | 子:1/2を人数で割る |
| 配偶者と子 | 遺産の1/2 | 配偶者:1/4、子:1/4を人数で割る |
| 直系尊属のみ | 遺産の1/3 | 直系尊属:1/3を人数で割る |
| 配偶者と直系尊属 | 遺産の1/2 | 配偶者:1/3、直系尊属:1/6を人数で割る |
【計算例】
遺産総額が6,000万円で、相続人が配偶者と子2人の場合
- 総体的遺留分:6,000万円 × 1/2 = 3,000万円
- 配偶者の個別的遺留分:3,000万円 × 1/2(法定相続分)= 1,500万円
- 子1人あたりの個別的遺留分:3,000万円 × 1/4(法定相続分)= 750万円
遺留分侵害額請求が必要となる典型的なケース
実際に遺留分侵害額請求が必要となるのは、以下のようなケースです。ご自身の状況が当てはまるか確認してみてください。
- 特定の相続人に全財産を相続させる内容の遺言がある
例:「長男に全財産を相続させる」「事業を継ぐ次男にすべての株式を渡す」 - 相続人以外の人へ多額の遺贈がある
例:「長年世話になった愛人に財産の半分を遺贈する」「お世話になったNPO法人に全財産を寄付する」 - 特定の子供への過大な生前贈与がある
例:長男が家を建てる際に5,000万円の資金援助をしていた、三女の留学費用として2,000万円を渡していたなど、相続財産の公平性を著しく害する特別受益がある場合。※但し贈与がなされた時期については制限があります。
このような状況に心当たりがある場合、あなたの遺留分が侵害されている可能性があります。

遺留分侵害額請求の手続き、3つのフェーズで徹底解説
遺留分侵害額請求は、いきなり裁判を起こすわけではありません。多くの場合、準備、交渉、そして法的手続きという段階を踏んで進められます。ここでは、そのプロセスを3つのフェーズに分け、具体的に何をすべきかを時系列で解説します。
フェーズ1:準備|請求の土台を固める
請求を始める前に、まずは客観的な証拠を集め、請求額を正確に計算するという土台作りが不可欠です。この準備を怠ると、後の交渉や法的手続きで不利になる可能性があります。
- 相続財産の調査・把握
最初に、被相続人が遺した財産の全体像を正確に把握する必要があります。不動産(土地・建物)、預貯金、株式などの有価証券、生命保険、自動車など、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も調査します。不動産は法務局で登記事項証明書を、預貯金は金融機関で残高証明書や取引履歴を取り寄せるなどして、財産目録を作成します。特に、被相続人名義でない「名義預金」や、生前に不自然な出金がないかなども注意深く調査することが重要です。 - 遺留分侵害額の計算
財産の総額が確定したら、自身の遺留分額と、実際に侵害されている金額を計算します。計算の基礎となる財産には、相続開始時の財産だけでなく、一定期間内の生前贈与(特別受益)も加算されるため、非常に複雑です。特に不動産の評価や非上場株式の価値算定は専門的な知識を要します。より具体的な手順については、遺留分侵害額請求の計算方法と留意点をご覧ください。
フェーズ2:交渉|まずは話し合いでの解決を目指す
準備が整ったら、いよいよ相手方への請求を開始します。多くのケースでは、まず当事者間の話し合いによる解決を目指します。
- 相手方への請求(内容証明郵便の送付)
遺留分侵害額請求の意思を明確に相手方に伝えるため、「内容証明郵便」を利用するのが一般的です。これは、いつ、誰が、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれるサービスです。口頭での請求や普通郵便では「言った、言わない」の争いになりかねませんが、内容証明郵便によって請求の事実が証拠として残ります。内容証明郵便によって「いつ・どのような請求をしたか」を証拠化でき、時効との関係でも重要な資料になります(なお、履行の催告として扱われる場合でも、完成猶予は原則として一定期間に限られます)。 - 協議・交渉
内容証明郵便を送付した後、相手方と具体的な支払い金額や支払い方法について交渉します。相手方が請求に応じれば、この段階で解決することもあります。感情的な対立を避け、準備フェーズで算出した客観的な根拠に基づいて冷静に話し合うことが重要です。 - 合意書の作成
交渉がまとまったら、必ず「合意書」を作成しましょう。口約束だけでは後々のトラブルの原因となります。合意書には、支払い金額、支払期日、支払い方法、そして「本合意書に定めるほか、当事者間には何らの債権債務関係がないことを相互に確認する」といった清算条項を明記します。

フェーズ3:法的手続き|調停・訴訟で権利を実現する
当事者間の交渉で解決しない場合や、相手が話し合いに一切応じない場合は、家庭裁判所を利用した法的手続きに移行します。
- 遺留分侵害額請求調停の申立て
交渉が決裂した場合、まずは家庭裁判所に「遺留分侵害額請求調停」を申し立てます。当事者間の交渉で解決しない場合は、家庭裁判所の調停手続を利用して解決を目指すことが一般的です。調停では、裁判官と民間の有識者からなる調停委員が間に入り、双方の主張を聞きながら、中立的な立場で解決案を提示し、合意を目指します。手続きは非公開で行われるため、プライバシーが守られるというメリットがあります。 - 訴訟の提起
調停でも合意に至らず「不成立」となった場合、最終手段として地方裁判所に「訴訟」を提起することになります。訴訟では、当事者双方が法的な主張と証拠を提出し、最終的には裁判官が判決を下して紛争の解決を図ります。訴訟は専門的な手続きであり、法律の専門家である弁護士のサポートが望ましいものなります。
【完全ガイド】遺留分侵害額請求に必要な書類一覧と集め方
遺留分侵害額請求の手続きをスムーズに進めるためには、各段階で適切な書類を準備することが重要です。ここでは、交渉段階と調停段階で必要となる主な書類と、その取得方法を解説します。
【交渉段階】内容証明郵便の送付に必要なもの
相手方との交渉、特に内容証明郵便を送付する際には、請求の根拠を明確に示す書類を手元に準備しておくことが望ましいです。これらは、後の調停や訴訟でも重要な証拠となります。
- 遺留分侵害額請求書(内容証明郵便用)
請求者、相手方、請求の意思、請求額、算定根拠などを記載した書面です。同じものを3通(相手方送付用・郵便局保管用・自分用)作成します。 - 遺言書の写し
遺言によって遺留分が侵害されている場合、その根拠となる遺言書のコピーが必要です。公正証書遺言であれば公証役場、自筆証書遺言であれば保管している人や法務局から入手します。 - 生前贈与の証拠
贈与契約書、銀行の振込履歴、不動産の登記事項証明書など、過大な生前贈与があったことを客観的に示す資料を収集します。
【調停段階】家庭裁判所への申立てに必要な書類
家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立てる際には、以下の書類を提出する必要があります。収集に時間がかかるものも多いため、早めに準備を始めましょう。
- 申立書
裁判所のウェブサイトから書式をダウンロードできます。申立ての趣旨や理由を記載します。 - 当事者目録・遺産目録
相続関係者の一覧や、対象となる財産の一覧です。 - 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍・改製原戸籍)
相続人を確定させるために必要です。本籍地を管轄する市区町村役場で取得します。より詳しい手順については、相続人調査と戸籍謄本を取り寄せる具体的手順をご覧ください。 - 相続人全員の戸籍謄本
各相続人の本籍地がある市区町村役場で取得します。 - 不動産登記事項証明書(登記簿謄本)
遺産に不動産が含まれる場合に必要です。管轄の法務局で取得します。 - 固定資産評価証明書
不動産の評価額を証明する書類です。不動産が所在する市区町村役場(または都税事務所)で取得します。 - 預貯金の残高証明書や取引履歴
被相続人名義の口座がある各金融機関で取得します。
その他、事案に応じて様々な書類が必要となります。裁判所から追加の提出を求められることもあります。
参照:遺留分侵害額の請求調停の申立書
遺留分侵害額請求にかかる費用の相場と内訳
遺留分侵害額請求を検討する際、多くの方が気になるのが費用面でしょう。費用は大きく分けて「自分で手続きする場合の実費」と「弁護士に依頼する場合の弁護士費用」の2種類があります。
自分で手続きする場合にかかる実費
弁護士に依頼せずご自身で手続きを行う場合でも、以下の実費が発生します。
- 書類取得費用:戸籍謄本(1通450円)、除籍謄本・改製原戸籍謄本(1通750円)、不動産登記事項証明書(1通600円)など、数千円から数万円程度かかることがあります。
- 内容証明郵便の郵送費:通常料金に加え、内容証明の加算料金(480円。2枚目以降は290円増)や、一般書留料、配達証明料などがかかります。
- 調停申立て費用:家庭裁判所に納める収入印紙代(1,200円)と、連絡用の郵便切手代(当事者数等により増減)が必要です。
弁護士に依頼する場合の費用相場と料金体系
弁護士に依頼する場合、上記の弁護士費用が別途必要となります。料金体系は事務所によって異なりますが、一般的には以下の項目で構成されています。
- 相談料:法律相談の際に発生する費用。当事務所では初回1時間無料としています。
- 着手金:事件を依頼する際に最初に支払う費用。結果に関わらず返金されないのが通常です。交渉、調停、訴訟と手続きの段階ごとに発生することが多いです。経済的利益の額に応じて変動し、20万円~50万円程度が相場となることが多いでしょう。
- 報酬金:事件が解決し、経済的利益(実際に回収できた金額)が得られた場合に支払う成功報酬です。回収額の10%~20%程度が一般的です。
- 日当・実費:弁護士が裁判所に出廷するなど、事務所外での活動に要する費用(日当)や、交通費、印紙代などの実費です。
【費用シミュレーション例】
弁護士に依頼し、交渉の結果1,000万円を回収できた場合(着手金33万円、報酬金11%の料金体系と仮定)
- 着手金:33万円
- 報酬金:1,000万円 × 11% = 110万円
- 合計:143万円(+実費)
※上記はあくまで一例です。具体的な費用は事案の難易度や請求額によって変動しますので、必ず依頼前に弁護士に見積もりを確認してください。

手続きを進める上での重要注意点|時効と税金
遺留分侵害額請求の手続きを進める上で、見落とすと権利を失ったり、予期せぬ負担が生じたりする重大な注意点があります。特に「時効」と「税金」については、専門家として強く注意を喚起します。
権利が消滅する2種類の時効に注意
遺留分侵害額請求権には、民法で定められた2種類の期間制限があり、これを過ぎると権利が消滅してしまいます。
- 短期の消滅時効:1年
「相続の開始」と「遺留分を侵害する贈与や遺贈があったこと」の両方を知った時から1年間です。例えば、被相続人が亡くなった後、遺言書の存在を初めて知り、その内容が自分の遺留分を侵害していると認識した時が起算点となります。この1年は非常に短いため、迅速な対応が求められます。 - 除斥期間:10年
遺留分侵害の事実を知っているかどうかにかかわらず、相続が開始した時から10年間が経過すると、権利は完全に消滅します。
この時効の進行を止める(完成を猶予させる)ためには、1年以内に相手方へ内容証明郵便で請求の意思表示をすることが極めて重要です。より詳しい解説は、遺留分侵害額請求の時効についての記事をご覧ください。
遺留分を取得した側・支払った側の税金はどうなる?
遺留分侵害額請求によって金銭のやり取りが発生すると、税金の問題も生じます。この点は見落とされがちですが、非常に重要です。
- 遺留分を取得した側:受け取った金銭は、遺産を相続したのと同じ扱いになります。そのため、取得した財産の価額によっては、新たに相続税の申告が必要になったり、既に提出した申告書を修正(修正申告)したりする必要が生じます。
- 遺留分を支払った側:遺留分として金銭を支払った分、自身の相続財産が減少したことになります。もし既に相続税を納めている場合、税金を納めすぎている状態になるため、税務署に対して「更正の請求」という手続きを行うことで、払いすぎた相続税の還付を受けられる可能性があります。
これらの税務手続きは複雑であり、相続税の申告期限との兼ね合いも考慮する必要があります。遺産分割における生前贈与の影響なども含め、税理士のサポートも視野に入れるとよいでしょう。
遺留分トラブルは弁護士への相談が解決への近道
ここまで遺留分侵害額請求の手続きについて解説してきましたが、そのプロセスの複雑さや専門性の高さをお分かりいただけたかと思います。ご自身の正当な権利を実現するためには、相続問題に精通した弁護士への相談は、有力な選択肢となり、結果的に早期解決につながるケースもあります。
弁護士に依頼すべき具体的なケースとは?
特に、以下のような状況に当てはまる場合は、お一人で悩まず、早期に弁護士へ相談することを強くお勧めします。
- 相手が話し合いに全く応じない、または感情的・高圧的な態度をとる
- 遺産に不動産や非上場株式など、評価が難しい財産が含まれている
- 相続関係が複雑で、他に誰が相続人なのか正確に把握できていない
- 相手方も弁護士を立ててきた(遺留分侵害額請求を受けた側も専門家を頼ることが多いです)
- 時効の1年が迫っており、迅速な対応が必要
これらのケースでは、法的な知識や交渉のスキルがなければ、不利な状況に追い込まれたり、権利そのものを失ってしまったりするリスクがあります。
虎ノ門法律経済事務所 柏支店の遺留分侵害額請求サポート
私たち虎ノ門法律経済事務所 柏支店では、遺留分に関するトラブルでお悩みの方々に対し、専門家として多角的なサポートを提供しています。
- 相続財産の徹底調査:見落とされがちな財産や生前贈与まで、専門的な視点で調査し、正確な遺産を確定させます。
- 正確な侵害額の算定:複雑な計算も、法律と判例に基づき正確に行い、あなたの正当な権利額を算出します。
- 相手方との交渉代理:あなたの代理人として、感情的な対立を避け、冷静かつ有利な条件での解決を目指し交渉します。
- 調停・訴訟手続きの全面サポート:法的手続きに移行した場合も、申立てから裁判所への出廷、書面作成まで、すべてを責任を持って代行します。
初回相談の可否や相談時間、土曜の受付可否などは運用・支店により異なるため、最新の案内をご確認ください。ご自身の権利が侵害されているかもしれないと感じたら、時効が成立してしまう前に、まずは一度、お気軽にご相談ください。専門家があなたの状況を整理し、最善の解決策をご提案いたします。
