未分類

不動産の共有名義は危険?弁護士がリスクと解消法を解説

2026-03-20

不動産の共有名義、そのままで大丈夫?潜むリスクとは?

ご親族が亡くなり、相続によって兄弟姉妹などと一緒に不動産を受け継ぐケースは少なくありません。その際、「とりあえず皆の名前で」と安易に共有名義にしてしまうと、後々トラブルの火種になりかねないことをご存じでしょうか。

共有名義の不動産は、処分(売却)をする場合には、全員の意見が一致しなければ前に進めません。最初は円満だった関係も、時間の経過とともにそれぞれの家庭の事情や考え方が変わり、思わぬところで意見が対立してしまうのです。ここでは、共有名義の不動産を放置することで生じる、代表的な5つのリスクについて見ていきましょう。

リスク1:売却やリフォームなど、不動産の活用が一人ではできない

共有不動産全体を売却したり、大規模なリフォーム(増改築等)をしたりといった建物の形状や価値を大きく変える「変更行為」には、共有者全員の同意が必要です。なお、不動産を賃貸に出す場合は、契約内容(期間など)や借地借家法の適用の有無等によって管理行為(持分の過半数で決する)となるケースと、全員の同意が必要となるケースに分かれます。

もし共有者の一人が認知症などで判断能力を失ってしまった場合、共有物の処分を含む法律行為を行うには成年後見人を選任する必要がありますが、この手続きは時間も費用もかかります。さらに、後見人が選任されたとしても、家庭裁判所は本人の財産を守ることを最優先に考えるため、不動産の売却が必ずしも認められるとは限りません。

不動産の共有名義問題で頭を抱える男性。書類を前に深刻な表情を浮かべている。

リスク2:相続のたびに権利関係が複雑化する

共有者が亡くなると、その人の持分はさらにその相続人へと引き継がれます。最初は兄弟2人の共有だったものが、次の世代では甥や姪も加わり、数十年後には会ったこともない親戚までが共有者になる…という事態も起こり得ます。関係者が増えれば増えるほど、意見をまとめるのは絶望的に困難になっていくでしょう。

リスク3:固定資産税などの費用負担で揉める

不動産を所有している限り、毎年固定資産税の支払い義務が生じます。共有名義の場合、共有者全員が連帯して納税義務を負いますが、代表者一人に納税通知書が送られてくるケースが一般的です。他の共有者が支払いに協力してくれないと、代表者が立て替えざるを得ず、金銭的なトラブルに発展しがちです。

リスク4:自分の知らないところで持分を第三者に売却される可能性がある

不動産「全体」の売却には全員の同意が必要ですが、各共有者が持つ「自分の持分だけ」を売却することに、他の共有者の同意は不要です。ある日突然、見ず知らずの不動産業者が新たな共有者として現れ、強硬な態度で共有物分割を求めてくる、といった事態も法的には起こり得るのです。

共有状態を解消する3つの方法|放棄・売却・分割を徹底比較

では、これらのリスクを回避し、複雑な共有関係から抜け出すにはどうすればよいのでしょうか。主な方法として、「共有持分の放棄」「共有持分の売却」「共有物分割」の3つが挙げられます。それぞれにメリット・デメリットがあり、ご自身の状況によって最適な選択肢は異なります。一つずつ丁寧に見ていきましょう。

不動産の共有状態を解消する3つの方法「放棄」「売却」「分割」のメリット・デメリットを比較した図解。

【選択肢1】共有持分の「放棄」-手続きは手軽だが注意点も

「放棄」とは、自分の共有持分を放棄する意思表示をすることです。放棄された持分は、法律の規定により他の共有者に帰属します。面倒な交渉などをせず、一方的に関係から抜け出せるように思えるかもしれませんが、実は大きな落とし穴があります。

最大の注意点は税金です。あなたが持分を放棄すると、それを受け取った他の共有者には「贈与」があったとみなされ、高額な贈与税が課される可能性があります。良かれと思ってしたことが、かえって他の共有者に大きな負担を強いることになりかねません。

また、放棄の意思表示は一人でできても、法務局で所有権移転の登記手続きをする際には、他の共有者の協力が不可欠です。もし協力が得られなければ、「登記引取請求訴訟」という裁判を起こさなければならず、手軽さというメリットが失われてしまいます。

【選択肢2】共有持分の「売却」-現金化できるが価格が課題

自分の共有持分だけを第三者に売却する方法です。この方法の最大のメリットは、他の共有者の同意が不要で、自分の判断だけで実行でき、現金を手にすることができる点です。

売却先としては、主に2つのパターンが考えられます。

  • 他の共有者に売却する:関係性が良好であれば、適正な価格で買い取ってもらえる可能性があります。
  • 専門の買取業者に売却する:共有持分を専門に買い取る不動産業者も存在します。交渉の手間なくスピーディーに現金化できますが、一般的に買取価格は市場価格よりもかなり低くなる傾向にあります。

「とにかく早く、他の共有者と関わらずに共有関係から抜け出したい」という方にとっては、有効な選択肢となり得ます。

【選択肢3】「共有物分割」-公平な解決を目指す基本手続き

共有者全員で話し合い、不動産そのものや、その価値を公平に分け合う方法です。これが共有関係を円満に解消するための最も基本的な手続きと言えるでしょう。分割の方法には、主に以下の3種類があります。

1. 現物分割(げんぶつぶんかつ)
不動産そのものを物理的に分割する方法です。例えば、一つの土地を複数の土地に分筆し、それぞれを各共有者が単独で所有します。広い土地など、物理的に分割が可能な場合に適しています。

2. 代償分割(だいしょうぶんかつ)
共有者の一人が不動産全体を取得する代わりに、他の共有者に対してその持分に見合った金銭(代償金)を支払う方法です。例えば、兄弟の一人が親の家を相続して住み続ける場合などに利用されます。この代償分割は、不動産を売却したくない場合に有効ですが、不動産を取得する側に十分な支払い能力があることが前提となります。

3. 換価分割(かんかぶんかつ)
不動産全体を売却して現金に換え、その売却代金を共有持分の割合に応じて分配する方法です。公平な分割がしやすく、誰もその不動産を必要としていない場合に最も適した、分かりやすい解決策と言えるでしょう。

話し合いで解決しない場合:共有物分割請求訴訟とは?

共有者間での話し合いがまとまらない、あるいはそもそも話し合いに応じてもらえない…。そんな膠着状態を打開するための最終手段が「共有物分割請求訴訟」です。

これは、裁判所に共有不動産の分割方法を決めてもらうための法的な手続きです。この訴訟の大きな特徴は、共有者の一人から請求があれば、他の共有者はこれを拒否できないという点です。つまり、訴訟を提起すれば、裁判所が分割方法を判断する手続きが進みます(ただし、共有者間に「分割しない」特約がある場合など、状況によっては直ちに分割請求ができないこともあります)。

この訴訟は、遺産分割がまとまらない場合に利用される遺産分割調停・審判とは異なり、地方裁判所が管轄となります。

訴訟手続きの流れと期間・費用の目安

訴訟と聞くと大事に聞こえるかもしれませんが、手続きの流れを知っておくことで、過度に恐れる必要はありません。

  1. 訴訟提起:弁護士が訴状を作成し、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に提出します。
  2. 口頭弁論:裁判所で、お互いの主張や証拠を提出し合います。通常、1〜2ヶ月に1回のペースで開かれます。
  3. 和解協議:裁判官から和解案が提示され、話し合いによる解決が試みられることも多くあります。
  4. 判決:和解が成立しない場合、裁判官が最も公平で妥当と判断した分割方法(現物分割、代償分割、換価分割のいずれか)を命じる判決を下します。

解決までの期間は、争いのない事案であれば半年程度、複雑な場合は1年〜2年以上かかることもあります。費用としては、弁護士費用に加え、裁判所に納める印紙代や郵便切手代、不動産の価値を評価するための鑑定費用(数十万円〜)などが必要となります。

弁護士が解説!訴訟に臨む上での3つの重要注意点

共有物分割請求訴訟は強力な解決手段ですが、臨む上ではいくつか知っておくべき重要なポイントがあります。これらは、遺産分割での争いとも共通する部分がありますが、共有物分割訴訟特有の注意点も存在します。

共有物分割請求訴訟について依頼者に丁寧に説明する弁護士。真剣な表情で話を聞いている。

注意点1:希望通りの判決が出るとは限らない
裁判所は、当事者の希望も聞き取りますが、最終的には「不動産の性質」「共有者間の関係」「利用状況」などを総合的に考慮して、最も公平な分割方法を判断します。特に、物理的に分割が難しい建物などの場合、当事者が望んでいなくても「競売(けいばい)」による換価分割を命じる判決が下される可能性があります。競売になると、通常の市場価格より安く売却されてしまうリスクがあることは覚悟しておく必要があります。

注意点2:代償分割を望むなら「支払い能力の証明」が不可欠
もしあなたが不動産全体を取得し、他の共有者に代償金を支払う「代償分割」を希望する場合、その支払い能力を客観的な証拠で示す必要があります。預金通帳のコピーや金融機関からの融資証明書などを提出し、「判決が出た場合に代償金を支払える見込みがある」ということを裁判所に示せなければ、代償分割の判決を得ることは難しくなる傾向にあります。

注意点3:訴訟中でも「和解」による柔軟な解決を目指せる
訴訟は、必ずしも判決まで争い抜くものとは限りません。裁判の途中でも、裁判官の仲介のもとで「和解」による解決が可能です。和解であれば、判決よりも柔軟な内容(例えば、分割払いや売却先の指定など)で合意できる可能性があります。感情的な対立を一旦脇に置き、お互いの妥協点を探ることで、より円満かつ迅速な解決が期待できます。

共有不動産トラブルは弁護士に相談すべき理由

共有不動産の問題は、法律だけでなく、税金や登記、そして何より親族間の感情が複雑に絡み合うため、当事者だけで解決しようとすると、かえって事態を悪化させてしまうことが少なくありません。専門家である弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 最適な解決策の提案:あなたの状況や希望を丁寧にお伺いした上で、法務・税務の両面から状況に応じた適切な解決策(放棄、売却、分割など)を提案できます。
  • 冷静な交渉の代理:感情的になりがちな親族間の交渉も、弁護士が代理人として間に入ることで、冷静かつ論理的に進めることができます。
  • 複雑な法的手続きの一任:訴状の作成や裁判所とのやり取りなど、専門知識が必要な手続きをすべて任せられるため、精神的・時間的な負担が大幅に軽減されます。
  • 将来を見据えた合意書作成:後々「言った・言わない」のトラブルが再燃しないよう、法的に有効で抜け漏れのない合意書を作成し、解決内容を明確な形で残します。

当事務所では、不動産や相続問題に注力しており、これまで多くの共有不動産トラブルを解決に導いてまいりました。初回のご相談は無料ですので、まずはお気軽にご自身の状況をお聞かせください。具体的な弁護士費用についても、ご依頼いただく前に分かりやすくご説明いたしますのでご安心ください。

まとめ|将来のトラブルを防ぐために今できること

この記事では、不動産の共有名義が抱えるリスクと、その解消法について解説してきました。重要なポイントを振り返ります。

  • 共有名義のまま放置すると、売却や活用ができないだけでなく、相続の発生でさらに権利関係が複雑化するリスクがある。
  • 共有関係を解消するには「持分放棄」「持分売却」「共有物分割」の3つの方法があるが、それぞれにメリット・デメリットが存在する。
  • 話し合いで解決しない場合は「共有物分割請求訴訟」という手段があり、裁判所が分割方法を判断する手続きが進みます(ただし、「分割しない」特約がある場合など、状況によっては直ちに請求できないこともあります)。

共有不動産の問題で最も危険なのは、「何もしないで放置すること」です。問題がこじれ、関係者が増えてしまう前に、できるだけ早く行動を起こすことが、円満な解決への一番の近道です。

また、これから相続を迎える方にとっては、将来このような問題でご家族が悩まないよう、遺言書を作成しておくことが非常に重要です。「この不動産は長男に」と明確に指定しておくことで、無用な共有状態の発生を防ぐことができます。

もし、あなたが今まさに共有不動産の問題でお悩みでしたら、一人で抱え込まずに、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。あなたの状況に合わせた最善の解決策を一緒に見つけ出します。

遺言書があっても遺産分割は可能?原則と例外、注意点を弁護士が解説

2026-03-20

遺言書がある場合でも遺産分割は可能?

「故人が遺した遺言書の内容が、現在の家族の状況に合わない」「特定の相続人に財産が偏っていて、このままでは納得できない」…。
このような状況で、遺言書が見つかった相続人の方から「遺言書があっても、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決めることはできないのでしょうか?」というご相談をよくお受けします。

結論から申し上げますと、遺言書が存在する場合でも、相続人全員の合意があれば、遺言書とは異なる内容で遺産分割を行うことは可能です。しかし、そのためには守るべき法律上の原則と、例外的に分割が認められるための条件が存在します。

相続における大原則は、亡くなった方(被相続人)の最終的な意思を尊重するという点にあり、遺言書の内容が優先されます。この原則があるからこそ、例外的な対応を取る際には、法律で定められた手続きを慎重に進める必要があるのです。

この記事では、遺言書と遺産分割協議の関係性について、法律の専門家である弁護士が、その原則と例外、そして実務上の重要な注意点まで、体系的に解説します。ご自身の状況でどのような選択肢があるのかを正しく理解し、後悔のない相続を実現するための一助となれば幸いです。このテーマの全体像については、遺産分割に関する問題で体系的に解説しています。

遺言書を前にして、遺産分割について悩んでいる夫婦の様子。遺言書があっても遺産分割ができるか検討している。

遺言書と遺産分割協議の基本的な関係【原則】

まず、なぜ遺言書の内容が遺産分割協議に優先されるのか、その基本的な考え方を理解しておくことが重要です。この原則を知ることで、後述する例外的な取り扱いがなぜ特別な条件を要するのか、その背景が明確になります。

なぜ遺言書の内容が最優先されるのか

民法では、自分の財産を誰に、どのように遺すかを自由に決められることが原則とされています。これは、個人の財産は本人の意思に基づいて処分されるべきという原則が、亡くなった後にも及ぶものとされているからです。

つまり、遺言書は被相続人の「最終意思」を表明したものであり、法律はこれを最大限尊重します。そのため、法律で定められた相続分(法定相続分)よりも、被相続人が遺言で定めた承継・分割方法が優先されるのです。この効力は、遺言が「自筆証書遺言」であっても「公正証書遺言」であっても変わりありません。形式さえ整っていれば、法的な効力に優劣はないのです。

遺言書があれば遺産分割協議が「不要」となるケース

原則として、遺言書によって全ての遺産の分け方が具体的に指定されている場合、相続人同士で遺産の分割方法を話し合う「遺産分割協議」は不要となります。相続人は、遺言書に書かれた内容に従って、不動産の名義変更や預貯金の解約といった手続きを進めることになります。

具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 全ての遺産の分割方法が明確に指定されている場合: 「長男にA不動産を、次男にB銀行の預金を」というように、全ての財産について帰属先が指定されていれば、協議の余地はありません。
  • 全ての遺産を特定の相続人に相続させるものとされている場合:そのものが相続することとなるため、協議の余地はありません 。

このように、「有効な遺言書があり、全財産の分割方法が指定されている」状態では、遺産分割協議は原則として行われない、という点をまずは押さえておきましょう。

参照:法務省「遺産の管理と遺産分割に関する見直し」

遺言書と異なる遺産分割ができる例外的な場合

ここからが本題です。法律の大原則は前述の通りですが、一定の場合には、例外的に遺言書の内容とは異なる遺産分割協議を行うことが認められています。ただし、これらは例外的なものとなりますので、ご自身の状況と照らし合わせながら、慎重にご確認ください。

ケース1:相続人および受遺者「全員」の同意がある

最も重要かつ絶対的な条件が、相続人「全員」の同意です。一人でも遺言書通りの分割を主張する相続人がいれば、遺言が優先され、異なる内容での遺産分割はできません。

さらに注意が必要なのは、遺言によって財産を受け取る人(受遺者)が相続人以外にいる場合です。例えば、「お世話になった知人に〇〇を遺贈する」といった内容です。この場合、その受遺者を含めた関係者全員の同意がなければ、遺言と異なる分割は認められません。受遺者も遺言によって法的な権利を得ているため、その権利を無視することはできないのです。

全員の同意が得られた場合は、その合意内容を証明するために、遺産分割協議書を作成するのが一般的です。実務上は、相続人・受遺者全員が署名し、手続先(不動産登記・金融機関等)の求めに応じて押印や印鑑証明書の提出が必要となることがあります。

遺言書によって「遺言執行者」が指定されている場合、話はさらに複雑になります。遺言執行者の任務は、その名の通り「遺言の内容を忠実に実現すること」です。民法第1013条では、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないと定められています。

そのため、遺言と異なる遺産分割を進める場合でも、相続人は遺言の執行を妨げる行為ができない点(民法第1013条)に注意が必要です。実務上は、遺言執行者が手続きを進めている(または進め得る)状況では、遺言執行者との調整が不可欠となります。もし遺言執行者がいる場合は、手続きを進める前に必ず専門家に相談することをお勧めします。より具体的な手順については、遺言執行者の役割とその責任をご覧ください。

ケース2:遺言書に記載のない遺産がある

遺言書を作成した後に取得した財産など、遺言書に記載されていない遺産が後から見つかることがあります。この「記載漏れの遺産」については、遺言の効力が及ばないため、その財産をどう分けるかについて、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。

ただし、遺言書に「本書に記載のないその他一切の財産は、長男〇〇に相続させる」といった包括的な記載(包括遺贈)がある場合は注意が必要です。この一文があることで、記載漏れの財産も長男が相続することになり、別途の遺産分割協議は不要となります。遺言書の文言は、一字一句正確に確認することが重要です。

ケース3:遺言書自体が無効である

そもそも、その遺言書が法的に無効である可能性も考えられます。遺言書が無効と判断された場合、それは「初めから遺言書がなかった」のと同じ状態になります。したがって、相続人全員で遺産分割協議を行って、遺産の分け方を決めることになります。

遺言が無効となる主なケースには、以下のようなものがあります。

  • 形式上の不備: 自筆証書遺言で日付の記載がない、署名・押印がないなど、法律で定められた形式を守っていない。
  • 遺言能力の欠如: 遺言者が認知症などで、遺言の内容を理解し、その結果を判断する能力(遺言能力)がなかったと認められる場合。
  • 公序良俗違反: 愛人関係の維持を目的とする遺贈など、内容が社会の倫理観に反する場合。

遺言書の有効性に疑問がある場合は、家庭裁判所に対して「遺言無効確認調停」や「遺言無効確認訴訟」を申し立て、法的な判断を求めることになります。

遺留分侵害額請求と遺産分割協議の関係

「遺言の内容には納得できないが、他の相続人が同意してくれそうにない。でも、自分の取り分が少なすぎるのは不公平だ」
このような場合に登場するのが「遺留分」という制度です。

大原則:遺産分割協議に対して遺留分侵害額請求はできない

まず、重要な原則として、相続人全員の合意で成立した遺産分割協議に自ら同意した場合、後からその協議内容について「遺留分が侵害された」と主張することは、原則として困難です。

なぜなら、遺留分侵害額請求は、あくまで被相続人が一方的に行った「遺贈」や「生前贈与」によって遺留分が侵害された場合に、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求する権利だからです。一方で、遺産分割協議は相続人全員が自らの意思で「合意」した結果です。自ら合意した内容について、後から争うことは原則として容易ではありません。

この点を理解せず、不本意ながらも遺産分割協議書に署名・押印してしまうと、後から遺留分を主張する権利を失ってしまう危険性があるのです。

遺言書が遺留分を侵害している場合の正しい対処法

では、遺言によって明らかに自身の遺留分が侵害されている場合、どうすればよいのでしょうか。その場合の正しいステップは、遺産分割協議の申し入れとは全く異なります。

第一歩は、遺留分を侵害している相手方(多くの財産を受け取った他の相続人や受遺者)に対して、「遺留分侵害額請求権を行使する」という意思表示を明確に行うことです。これは通常、後々の証拠とするために内容証明郵便などを用いて行います。

この請求権の行使によって、初めて相手方との間で具体的な支払額や支払い方法についての話し合い(協議)がスタートします。あくまで「権利行使が先、話し合いが後」という順序を間違えないようにしてください。詳しい手続きについては、遺留分侵害額請求を行うための手続きの記事でも解説しています。

遺言に納得できない場合の選択肢まとめ

ここまでを整理すると、遺言書の内容に納得できない場合に、あなたが取りうる選択肢は大きく分けて3つあることになります。

  1. 遺言と異なる遺産分割協議を目指す: 他の相続人・受遺者全員の同意が得られる見込みがある場合に有効な選択肢です。円満に解決できる可能性が最も高い方法といえます。
  2. 遺留分侵害額請求を行う: 全員の同意は得られないが、自身の最低限の取り分(遺留分)は確保したい場合の選択肢です。これは協議ではなく、権利の行使です。
  3. 遺言無効確認訴訟を提起する: 遺言書自体の有効性に根本的な疑問がある場合の最終手段です。無効が認められれば、遺言はなかったことになります。

どの選択肢がご自身の状況にとって最適なのか、慎重に見極める必要があります。

遺言書と異なる遺産分割を行う際の注意点

仮に相続人全員の同意が得られ、遺言と異なる遺産分割を行う場合でも、実務上、注意すべき「落とし穴」が存在します。特に税務上の問題は、知らずに進めると深刻な結果を招く可能性があるため、必ず確認してください。

【税務】手続きの順序を誤ると贈与税の対象に

遺言書の内容と異なる遺産分割協議が成立した場合でも、その内容は相続税の課税対象となり、原則として贈与税はかかりません。この点は、遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税(国税庁No.4176)でも明記されています。

しかし、手続きの順序を一つ間違えるだけで、高額な贈与税が課される重大なリスクがあります。それは、「一度、遺言書通りに不動産の相続登記や預貯金の名義変更を完了させた後」に、改めて財産を分け直すケースです。

この場合、税務上は「遺産分割のやり直し」ではなく、「遺言書通りに財産を取得した相続人から、他の相続人への贈与」と見なされてしまいます。そうなると、財産を受け取った側に多額の贈与税が課せられる可能性があるのです。

遺言と異なる分割を行うのであれば、必ず不動産の相続登記などの各種名義変更手続きに着手する「前」に、遺産分割協議を完了させなければならない、という点を肝に銘じてください。

弁護士に遺産分割の相談をし、税務リスクなどの注意点について説明を受けている夫婦。専門家への相談の重要性を示している。

【手続き】必ず「遺産分割協議書」を作成する

「家族だから」と口約束だけで済ませてしまうのは、後々のトラブルの元です。相続人・受遺者全員の合意が得られたら、その内容を証明する書面として、必ず「遺産分割協議書」を作成しましょう。

この協議書には、全員が署名し、実印を押印します。この正式な書類がなければ、不動産の所有権移転登記や、金融機関での預貯金の解約・名義変更手続きを進めることができません。

また、後の紛争を予防する実務的なノウハウとして、協議書の文中に「相続人全員は、被相続人〇〇の遺言書が存在することを確認した上で、あえて本協議書記載の通りに遺産を分割することに全員で合意した」といった一文を加えておくことをお勧めします。これにより、全員が遺言書の存在を認識した上で合意したことが明確になり、遺産分割協議の不成立といった事態を防ぐ効果が期待できます。

まとめ|遺言書がある場合の相続手続きは専門家へご相談を

今回は、遺言書がある場合の遺産分割について、その原則と例外、そして注意点を解説しました。

要点をまとめると以下の通りです。

  • 相続では遺言書の内容が最優先されるのが大原則。
  • 例外的に、相続人・受遺者「全員」の同意があれば、遺言と異なる遺産分割が可能。
  • 遺言執行者がいる場合は、その同意も必要になるなど、手続きは複雑化する。
  • 遺留分侵害額請求と遺産分割協議は全く別の手続きであり、安易な合意は禁物。
  • 手続きの順序を誤ると、高額な贈与税が課されるリスクがある。

このように、遺言書がある場合の遺産分割には、法律上・税務上の多くの論点が含まれており、ご自身たちだけで判断して進めることには大きなリスクが伴います。相続人間の感情的な対立を避け、法的に正しく、かつ円満な解決を目指すためには、早い段階で相続問題の相談ができる弁護士に相談することが有力な選択肢となります。

虎ノ門法律経済事務所 柏支店では、相続問題に注力しており、初回のご相談は1時間無料でお受けしております。また、平日はお仕事でお忙しい方でもご相談いただきやすいよう、土曜日も通常営業しております。ご家族にとって最善の解決策を共に考えますので、どうぞお一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

keyboard_arrow_up

0471971166 問い合わせバナー 事務所紹介