遺言書があっても遺産分割は可能?原則と例外、注意点を弁護士が解説

遺言書がある場合でも遺産分割は可能?

「故人が遺した遺言書の内容が、現在の家族の状況に合わない」「特定の相続人に財産が偏っていて、このままでは納得できない」…。
このような状況で、遺言書が見つかった相続人の方から「遺言書があっても、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決めることはできないのでしょうか?」というご相談をよくお受けします。

結論から申し上げますと、遺言書が存在する場合でも、相続人全員の合意があれば、遺言書とは異なる内容で遺産分割を行うことは可能です。しかし、そのためには守るべき法律上の原則と、例外的に分割が認められるための条件が存在します。

相続における大原則は、亡くなった方(被相続人)の最終的な意思を尊重するという点にあり、遺言書の内容が優先されます。この原則があるからこそ、例外的な対応を取る際には、法律で定められた手続きを慎重に進める必要があるのです。

この記事では、遺言書と遺産分割協議の関係性について、法律の専門家である弁護士が、その原則と例外、そして実務上の重要な注意点まで、体系的に解説します。ご自身の状況でどのような選択肢があるのかを正しく理解し、後悔のない相続を実現するための一助となれば幸いです。このテーマの全体像については、遺産分割に関する問題で体系的に解説しています。

遺言書を前にして、遺産分割について悩んでいる夫婦の様子。遺言書があっても遺産分割ができるか検討している。

遺言書と遺産分割協議の基本的な関係【原則】

まず、なぜ遺言書の内容が遺産分割協議に優先されるのか、その基本的な考え方を理解しておくことが重要です。この原則を知ることで、後述する例外的な取り扱いがなぜ特別な条件を要するのか、その背景が明確になります。

なぜ遺言書の内容が最優先されるのか

民法では、自分の財産を誰に、どのように遺すかを自由に決められることが原則とされています。これは、個人の財産は本人の意思に基づいて処分されるべきという原則が、亡くなった後にも及ぶものとされているからです。

つまり、遺言書は被相続人の「最終意思」を表明したものであり、法律はこれを最大限尊重します。そのため、法律で定められた相続分(法定相続分)よりも、被相続人が遺言で定めた承継・分割方法が優先されるのです。この効力は、遺言が「自筆証書遺言」であっても「公正証書遺言」であっても変わりありません。形式さえ整っていれば、法的な効力に優劣はないのです。

遺言書があれば遺産分割協議が「不要」となるケース

原則として、遺言書によって全ての遺産の分け方が具体的に指定されている場合、相続人同士で遺産の分割方法を話し合う「遺産分割協議」は不要となります。相続人は、遺言書に書かれた内容に従って、不動産の名義変更や預貯金の解約といった手続きを進めることになります。

具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 全ての遺産の分割方法が明確に指定されている場合: 「長男にA不動産を、次男にB銀行の預金を」というように、全ての財産について帰属先が指定されていれば、協議の余地はありません。
  • 全ての遺産を特定の相続人に相続させるものとされている場合:そのものが相続することとなるため、協議の余地はありません 。

このように、「有効な遺言書があり、全財産の分割方法が指定されている」状態では、遺産分割協議は原則として行われない、という点をまずは押さえておきましょう。

参照:法務省「遺産の管理と遺産分割に関する見直し」

遺言書と異なる遺産分割ができる例外的な場合

ここからが本題です。法律の大原則は前述の通りですが、一定の場合には、例外的に遺言書の内容とは異なる遺産分割協議を行うことが認められています。ただし、これらは例外的なものとなりますので、ご自身の状況と照らし合わせながら、慎重にご確認ください。

ケース1:相続人および受遺者「全員」の同意がある

最も重要かつ絶対的な条件が、相続人「全員」の同意です。一人でも遺言書通りの分割を主張する相続人がいれば、遺言が優先され、異なる内容での遺産分割はできません。

さらに注意が必要なのは、遺言によって財産を受け取る人(受遺者)が相続人以外にいる場合です。例えば、「お世話になった知人に〇〇を遺贈する」といった内容です。この場合、その受遺者を含めた関係者全員の同意がなければ、遺言と異なる分割は認められません。受遺者も遺言によって法的な権利を得ているため、その権利を無視することはできないのです。

全員の同意が得られた場合は、その合意内容を証明するために、遺産分割協議書を作成するのが一般的です。実務上は、相続人・受遺者全員が署名し、手続先(不動産登記・金融機関等)の求めに応じて押印や印鑑証明書の提出が必要となることがあります。

遺言書によって「遺言執行者」が指定されている場合、話はさらに複雑になります。遺言執行者の任務は、その名の通り「遺言の内容を忠実に実現すること」です。民法第1013条では、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないと定められています。

そのため、遺言と異なる遺産分割を進める場合でも、相続人は遺言の執行を妨げる行為ができない点(民法第1013条)に注意が必要です。実務上は、遺言執行者が手続きを進めている(または進め得る)状況では、遺言執行者との調整が不可欠となります。もし遺言執行者がいる場合は、手続きを進める前に必ず専門家に相談することをお勧めします。より具体的な手順については、遺言執行者の役割とその責任をご覧ください。

ケース2:遺言書に記載のない遺産がある

遺言書を作成した後に取得した財産など、遺言書に記載されていない遺産が後から見つかることがあります。この「記載漏れの遺産」については、遺言の効力が及ばないため、その財産をどう分けるかについて、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。

ただし、遺言書に「本書に記載のないその他一切の財産は、長男〇〇に相続させる」といった包括的な記載(包括遺贈)がある場合は注意が必要です。この一文があることで、記載漏れの財産も長男が相続することになり、別途の遺産分割協議は不要となります。遺言書の文言は、一字一句正確に確認することが重要です。

ケース3:遺言書自体が無効である

そもそも、その遺言書が法的に無効である可能性も考えられます。遺言書が無効と判断された場合、それは「初めから遺言書がなかった」のと同じ状態になります。したがって、相続人全員で遺産分割協議を行って、遺産の分け方を決めることになります。

遺言が無効となる主なケースには、以下のようなものがあります。

  • 形式上の不備: 自筆証書遺言で日付の記載がない、署名・押印がないなど、法律で定められた形式を守っていない。
  • 遺言能力の欠如: 遺言者が認知症などで、遺言の内容を理解し、その結果を判断する能力(遺言能力)がなかったと認められる場合。
  • 公序良俗違反: 愛人関係の維持を目的とする遺贈など、内容が社会の倫理観に反する場合。

遺言書の有効性に疑問がある場合は、家庭裁判所に対して「遺言無効確認調停」や「遺言無効確認訴訟」を申し立て、法的な判断を求めることになります。

遺留分侵害額請求と遺産分割協議の関係

「遺言の内容には納得できないが、他の相続人が同意してくれそうにない。でも、自分の取り分が少なすぎるのは不公平だ」
このような場合に登場するのが「遺留分」という制度です。

大原則:遺産分割協議に対して遺留分侵害額請求はできない

まず、重要な原則として、相続人全員の合意で成立した遺産分割協議に自ら同意した場合、後からその協議内容について「遺留分が侵害された」と主張することは、原則として困難です。

なぜなら、遺留分侵害額請求は、あくまで被相続人が一方的に行った「遺贈」や「生前贈与」によって遺留分が侵害された場合に、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求する権利だからです。一方で、遺産分割協議は相続人全員が自らの意思で「合意」した結果です。自ら合意した内容について、後から争うことは原則として容易ではありません。

この点を理解せず、不本意ながらも遺産分割協議書に署名・押印してしまうと、後から遺留分を主張する権利を失ってしまう危険性があるのです。

遺言書が遺留分を侵害している場合の正しい対処法

では、遺言によって明らかに自身の遺留分が侵害されている場合、どうすればよいのでしょうか。その場合の正しいステップは、遺産分割協議の申し入れとは全く異なります。

第一歩は、遺留分を侵害している相手方(多くの財産を受け取った他の相続人や受遺者)に対して、「遺留分侵害額請求権を行使する」という意思表示を明確に行うことです。これは通常、後々の証拠とするために内容証明郵便などを用いて行います。

この請求権の行使によって、初めて相手方との間で具体的な支払額や支払い方法についての話し合い(協議)がスタートします。あくまで「権利行使が先、話し合いが後」という順序を間違えないようにしてください。詳しい手続きについては、遺留分侵害額請求を行うための手続きの記事でも解説しています。

遺言に納得できない場合の選択肢まとめ

ここまでを整理すると、遺言書の内容に納得できない場合に、あなたが取りうる選択肢は大きく分けて3つあることになります。

  1. 遺言と異なる遺産分割協議を目指す: 他の相続人・受遺者全員の同意が得られる見込みがある場合に有効な選択肢です。円満に解決できる可能性が最も高い方法といえます。
  2. 遺留分侵害額請求を行う: 全員の同意は得られないが、自身の最低限の取り分(遺留分)は確保したい場合の選択肢です。これは協議ではなく、権利の行使です。
  3. 遺言無効確認訴訟を提起する: 遺言書自体の有効性に根本的な疑問がある場合の最終手段です。無効が認められれば、遺言はなかったことになります。

どの選択肢がご自身の状況にとって最適なのか、慎重に見極める必要があります。

遺言書と異なる遺産分割を行う際の注意点

仮に相続人全員の同意が得られ、遺言と異なる遺産分割を行う場合でも、実務上、注意すべき「落とし穴」が存在します。特に税務上の問題は、知らずに進めると深刻な結果を招く可能性があるため、必ず確認してください。

【税務】手続きの順序を誤ると贈与税の対象に

遺言書の内容と異なる遺産分割協議が成立した場合でも、その内容は相続税の課税対象となり、原則として贈与税はかかりません。この点は、遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税(国税庁No.4176)でも明記されています。

しかし、手続きの順序を一つ間違えるだけで、高額な贈与税が課される重大なリスクがあります。それは、「一度、遺言書通りに不動産の相続登記や預貯金の名義変更を完了させた後」に、改めて財産を分け直すケースです。

この場合、税務上は「遺産分割のやり直し」ではなく、「遺言書通りに財産を取得した相続人から、他の相続人への贈与」と見なされてしまいます。そうなると、財産を受け取った側に多額の贈与税が課せられる可能性があるのです。

遺言と異なる分割を行うのであれば、必ず不動産の相続登記などの各種名義変更手続きに着手する「前」に、遺産分割協議を完了させなければならない、という点を肝に銘じてください。

弁護士に遺産分割の相談をし、税務リスクなどの注意点について説明を受けている夫婦。専門家への相談の重要性を示している。

【手続き】必ず「遺産分割協議書」を作成する

「家族だから」と口約束だけで済ませてしまうのは、後々のトラブルの元です。相続人・受遺者全員の合意が得られたら、その内容を証明する書面として、必ず「遺産分割協議書」を作成しましょう。

この協議書には、全員が署名し、実印を押印します。この正式な書類がなければ、不動産の所有権移転登記や、金融機関での預貯金の解約・名義変更手続きを進めることができません。

また、後の紛争を予防する実務的なノウハウとして、協議書の文中に「相続人全員は、被相続人〇〇の遺言書が存在することを確認した上で、あえて本協議書記載の通りに遺産を分割することに全員で合意した」といった一文を加えておくことをお勧めします。これにより、全員が遺言書の存在を認識した上で合意したことが明確になり、遺産分割協議の不成立といった事態を防ぐ効果が期待できます。

まとめ|遺言書がある場合の相続手続きは専門家へご相談を

今回は、遺言書がある場合の遺産分割について、その原則と例外、そして注意点を解説しました。

要点をまとめると以下の通りです。

  • 相続では遺言書の内容が最優先されるのが大原則。
  • 例外的に、相続人・受遺者「全員」の同意があれば、遺言と異なる遺産分割が可能。
  • 遺言執行者がいる場合は、その同意も必要になるなど、手続きは複雑化する。
  • 遺留分侵害額請求と遺産分割協議は全く別の手続きであり、安易な合意は禁物。
  • 手続きの順序を誤ると、高額な贈与税が課されるリスクがある。

このように、遺言書がある場合の遺産分割には、法律上・税務上の多くの論点が含まれており、ご自身たちだけで判断して進めることには大きなリスクが伴います。相続人間の感情的な対立を避け、法的に正しく、かつ円満な解決を目指すためには、早い段階で相続問題の相談ができる弁護士に相談することが有力な選択肢となります。

虎ノ門法律経済事務所 柏支店では、相続問題に注力しており、初回のご相談は1時間無料でお受けしております。また、平日はお仕事でお忙しい方でもご相談いただきやすいよう、土曜日も通常営業しております。ご家族にとって最善の解決策を共に考えますので、どうぞお一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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