遺言執行者に選ばれた際の対応方法

遺言執行者に指定されたら?まず検討すべき3つの選択肢

ある日突然、遺言書で「遺言執行者」に指定されたら、多くの方が戸惑い、その責任の重さに不安を感じるのではないでしょうか。遺言執行者とは、故人の最後の意思である遺言の内容を、法的に実現する非常に重要な役割を担う立場です。しかし、だからといって強制的にその役目を負わされるわけではありません。

あなたがまずすべきことは、ご自身の状況を冷静に分析し、法的に認められた3つの選択肢の中から、適切な対応を選ぶことです。

  • 就任を承諾する:遺言執行者として、故人の意思を実現するために職務を遂行する。
  • 就任を辞退する:遺言執行者になることを、就任を承諾する前に断る。
  • 就任後に辞任する:一度は就任を承諾したものの、事情により途中で辞める。

この記事では、どの対応を選ぶべきか判断するための考え方と、選択後に必要となる具体的な手続きを、弁護士が分かりやすく解説します。

就任を承諾するかどうかの判断チェックリスト

「自分に遺言執行者の大役が務まるだろうか?」そのように悩んだら、まずは以下のチェックリストでご自身の状況を客観的に見つめ直してみましょう。

遺言執行者に就任するかどうかの判断基準を示す5つのチェックリストの図解。相続人との関係、財産把握、時間確保、手続き対応、精神的余裕の項目が含まれている。
  • 相続人全員と円満な関係を築けていますか?
    遺言執行は、相続人全員との連携が不可欠です。感情的な対立があると、業務が著しく困難になる可能性があります。
  • 故人の財産(プラスもマイナスも)を正確に把握できそうですか?
    不動産、預貯金、株式だけでなく、ローンなどの負債も調査対象です。財産が多岐にわたる、あるいは遠方にある場合、調査は複雑を極めます。
  • 平日の日中に、銀行や法務局などへ行く時間を確保できますか?
    各種手続きは、多くの場合、平日の日中に役所や金融機関の窓口に出向く必要があります。
  • 法律や税務に関する複雑な手続きに対応できますか?
    相続登記や相続税の申告など、専門的な知識が求められる場面も少なくありません。
  • 最後まで責任をもってやり遂げる精神的な余裕はありますか?
    遺言執行者には重い責任が伴い、時には相続人からのプレッシャーに晒されることもあります。

これらの質問に自信を持って「はい」と答えられない項目がある場合、安易に就任を承諾するのは慎重に考えるべきかもしれません。

「辞退」と「辞任」の決定的な違いとは?

遺言執行者の役目を断る選択肢として「辞退」と「辞任」がありますが、この二つは法的に全く異なります。この違いを理解することが、後悔しないための最初の重要なステップです。

遺言執行者の「辞退」と「辞任」の法的な違いを比較する図解。タイミング、要件、手続きの3つの観点から両者の違いを明確に示している。

辞退:就任を承諾するに断ること
遺言執行者になることを引き受ける前であれば、比較的自由にその役目を断ることができます。特別な理由も、家庭裁判所の許可も必要ありません。

辞任:就任を承諾したに辞めること
一度「やります」と承諾してしまうと、単に「面倒になった」「相続人と揉めた」といった理由で自由に辞めることはできません。辞任するには、病気や長期の海外出張といった「正当な事由」を家庭裁判所に認めてもらう必要があります。

つまり、就任を承諾するかどうかの最初の意思決定が極めて重要なのです。

【ルート1】遺言執行者に就任する場合の具体的な手続き

チェックリストを確認し、熟慮の末に就任を決意された場合、ここからは具体的な手続きのステップに進みます。故人の意思を実現するため、一つひとつ着実に進めていきましょう。特に最初の2つのステップは、法律で定められた重要な義務です。

ステップ1:相続人全員への就任通知【文例付き】

遺言執行者として最初に行うべきことは、相続人全員に対して、遺言執行者に就任したことと遺言の内容を知らせることです。これは民法第1007条2項で定められた義務であり、「遅滞なく」行う必要があります。

通知は、後のトラブルを避けるためにも、口頭ではなく書面で行うのが賢明です。特に、配達証明付き内容証明郵便を利用すれば、「誰が、いつ、どのような内容の通知を送ったか」を公的に証明できます。

就任通知書(文例)

令和〇年〇月〇日

相続人各位

遺言執行者 〇〇 〇〇 (住所・連絡先)

遺言執行者就任に関するお知らせ

拝啓

被相続人〇〇〇〇儀(令和〇年〇月〇日逝去)の相続に関し、故人が作成した令和〇年〇月〇日付の遺言書に基づき、私が遺言執行者に就任いたしましたので、本書面をもってお知らせいたします。

今後は、私が遺言執行者として、遺言の内容を実現するために必要な手続きを進めてまいります。つきましては、相続財産の調査が完了次第、財産目録を作成し、皆様にご報告申し上げる予定です。

相続人の皆様におかれましては、本件手続きにご理解ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

まずは書中をもちまして、ご挨拶とご報告を申し上げます。

敬具

ステップ2:相続財産の調査と財産目録の作成・交付

次に、故人が遺した財産をすべて調査し、その一覧である「財産目録」を作成します。これも民法第1011条で定められた義務です。預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も漏れなく調査し、正確な目録を作成しなければなりません。

財産の種類調査方法・確認書類
預貯金各金融機関にて残高証明書を取得
不動産(土地・建物)法務局にて登記事項証明書(登記簿謄本)を取得
有価証券(株式など)証券会社にて残高証明書を取得
生命保険保険会社に契約内容を照会し、契約者・受取人・保険金請求権の帰属を確認
借入金・ローン金融機関や信販会社に契約内容を照会
財産調査の対象(例)

調査が完了したら、財産目録を作成し、その写しを相続人全員に交付する義務があります。この目録が、今後の遺言執行の基礎となります。

ステップ3:遺言内容の実現(名義変更・遺贈など)

財産目録の交付後、いよいよ遺言の内容を実現する中心的な業務に入ります。具体的には、以下のような手続きを進めていくことになります。

  • 不動産の相続登記:法務局にて、遺言書の内容に従い不動産の名義変更手続きを行います。
  • 預貯金の解約・名義変更:各金融機関にて、口座の解約や相続人名義への変更手続きを行います。
  • 株式の移管手続き:株式などの有価証券を、証券会社を通じて指定された相続人の口座へ移管します。
  • 遺贈の履行:遺言で指定された特定の個人や団体(例:慈善団体への寄付など)へ財産を引き渡します。

これらの手続きはそれぞれ専門的な知識や書類が必要となり、時間も要するため、計画的に進めることが重要です。なお、自筆証書遺言の場合は、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合を除き、これらの手続きの前に家庭裁判所での検認手続きが必要になる点も忘れてはなりません。

より詳しい職務内容については、遺言執行者の職務と義務をご覧ください。

【ルート2】遺言執行者への就任を辞退(拒否)する方法

就任の打診を受け、検討した結果、引き受けるのが難しいと判断した場合、就任を「辞退」することができます。前述の通り、就任を承諾する前であれば、理由は問われず、誰の許可も必要ありません。この点は、読者の皆様の心理的な負担を大きく和らげる事実でしょう。

相続人への「辞退通知」の出し方【文例付き】

法律上、辞退の通知方法に決まりはありません。しかし、ご自身の意思を明確にし、後のトラブルを防ぐためにも、相続人全員に書面で通知しておくことが強く推奨されます。

辞退通知書(文例)

令和〇年〇月〇日

相続人各位

(ご自身の氏名・住所・連絡先)

遺言執行者辞退に関するお知らせ

拝啓

被相続人〇〇〇〇儀(令和〇年〇月〇日逝去)が作成した令和〇年〇月〇日付の遺言書において、私が遺言執行者に指定されておりましたが、諸般の事情により、遺言執行者の職務に就くことを辞退させていただきたく、本書面をもちましてお知らせいたします。

誠に恐縮ではございますが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。

敬具

注意点:相続人からの催告を無視すると就任とみなされる

辞退する際に、一点だけ絶対に注意しなければならないことがあります。それは、民法第1008条に定められた「催告」のルールです。

相続人などの利害関係人は、あなたに対して「相当の期間内に就任を承諾するかどうか返事をください」と催告することができます。もし、この催告で定められた期間内に返事をしないと、法律上、「就任を承諾したもの」とみなされてしまうのです。

この点について、当職が過去に取り扱った案件でも、以下のような注意喚起をさせていただいております。

相続人その他の利害関係人から、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかを回答するよう催告があった場合に、その期間内に遺言執行者が相続人に対し確答をしない場合には、就任を承諾したものとみなされるので(民法1008条)、注意が必要です。

辞退の意思がある場合は、曖昧な態度を取らず、速やかに明確な意思表示をすることが極めて重要です。

【ルート3】一度就任した後に辞任するための手続き

一度は遺言執行者に就任したものの、病気になった、海外へ転勤することになったなど、どうしても職務を続けられなくなる事情が発生することもあり得ます。このような場合に、就任後に職を辞するのが「辞任」です。

しかし、辞退と違って辞任のハードルは格段に高くなります。「正当な事由」があることを家庭裁判所に申し立て、その「許可」を得なければなりません。

辞任に必要な「正当な事由」とは?認められるケース

「正当な事由」とは、客観的に見て遺言執行の任務を続けることが困難であると認められる事情を指します。具体的には、以下のようなケースが考えられます。

  • 重い病気や怪我で、長期の療養が必要になった
  • 海外への転勤や、遠隔地への転居が決まった
  • 高齢や心身の衰えにより、職務の遂行が困難になった
  • 遺産の調査を進めた結果、自身の知識では対応不可能な極めて専門的な問題が発覚した

一方で、「相続人との人間関係が悪化した」「仕事が忙しくなった」「単に面倒になった」といった主観的な理由だけでは、正当な事由として認められるのは難しいでしょう。就任を承諾するということは、それだけ重い責任を負うということなのです。

家庭裁判所への「辞任許可申立」の流れと必要書類

正当な事由があり、辞任を決意した場合は、家庭裁判所に対して「遺言執行者辞任許可申立」を行う必要があります。手続きの概要は以下の通りです。

  1. 申立先:被相続人(故人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
  2. 申立人:遺言執行者本人
  3. 主な必要書類:
    • 申立書
    • 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本
    • 申立人の住民票または戸籍附票
    • 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
    • 辞任についての正当な事由を証明する資料(診断書など)

申立てが認められ、辞任の許可が下りたら、その旨を相続人などの利害関係者に通知します。この家庭裁判所での手続きは複雑なため、ご自身での対応が難しいと感じた場合は、速やかに弁護士へ相談することをお勧めします。

参照: 裁判所|遺言執行者の選任
参照: e-Gov法令検索|民法

遺言執行者の業務に不安なら弁護士への相談が最善策

ここまでご覧いただいたように、遺言執行者の業務は多岐にわたり、法的な義務と重い責任が伴います。相続財産の調査、法的な手続き、相続人との調整など、一つでも間違えると、損害賠償を請求されるリスクさえあります。

もしあなたが遺言執行者に指定され、少しでも「自分一人でやり遂げるのは難しいかもしれない」と感じたのであれば、決して無理をせず、専門家である弁護士にご相談ください。

弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。

  • 複雑な手続きをすべて任せられる:財産調査から各種名義変更まで、煩雑な業務から解放されます。
  • 法的なリスクを抑えやすくなる:法律の専門家として、必要な確認を行いながら手続きを進めることができます。
  • 相続人間のトラブルを未然に防げる:中立的な立場で相続人との調整役を担い、感情的な対立を避け、円滑な遺言執行を実現します。

虎ノ門法律経済事務所柏支店では、相続問題に注力しており、遺言執行に関する豊富な知識と経験を有しています。就任すべきかどうかのご相談から、就任後の具体的な業務の代行、辞任手続きのサポートまで、あなたの状況に合わせた解決策をご提案いたします。初回のご相談は1時間無料ですので、一人で抱え込まず、まずはお気軽にお問い合わせください。

当事務所の弁護士費用については、明確な料金体系をご用意しておりますので、安心してご相談いただけます。

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