亡くなられた方(被相続人)の遺産には、プラスの財産(不動産や預貯金など)とマイナスの財産(借金やローンなど)があります。
もし故人が多額の債務を残している場合、相続人はその負債を引き継ぐことになります。このような状況で相続人にとって有効な選択肢となるのが「相続放棄」です。
本記事では、相続放棄の制度概要、手続きの流れや必要書類、さらに注意するべきポイントについて丁寧にご説明いたします。
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相続放棄とは?
相続放棄とは、相続の効果の自身への帰属を消滅させる相続人の意思表示です。
民法939条は、「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」規定しており、相続放棄を行うと、相続放棄をした者は、相続人でなかったものとして扱われ、被相続人の権利や義務などを一切引き継ぐことがなくなります。
そのため、借金を負担することはなくなりますが、同時にプラスの遺産を受け取ることもできなくなります。
相続放棄の手続きの流れと期限
相続放棄の手続きは、以下のとおりです。特に手続きの期限には注意が必要です。
① 相続放棄の期間内申述
相続放棄をするかどうかは、相続の開始(故人が亡くなられたこと)と自らが相続人であることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述書を提出する必要があります。
この期間を「熟慮期間」といい、原則として延長はできませんが、手続きが遅れた場合には特別な事情が認められれば延長の申立てが可能です。

② 相続放棄申述書の準備と提出書類
相続放棄を希望される方は、以下の書類を揃えて家庭裁判所に提出する必要があります。
※放棄される方が子や配偶者以外の場合には、別途追加で戸籍謄本類が必要となる場合があります。
書類の名称 | 必要な取得先・備考 |
相続放棄申述書 | 家庭裁判所または裁判所ウェブサイトからダウンロード可能。 |
被相続人の住民票除票または戸籍の附票 | 故人の最後の住所地の市区町村役場で取得可能(発行から3ヶ月以内のもの)。 |
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 | 本籍地の役所で取得可能。 |
相続人(申述人)自身の戸籍謄本 | 相続人の本籍地の役所で取得可能。 |
収入印紙(申述書提出時手数料) | 1通につき800円分(家庭裁判所提出時に必要です)。 |
郵送料 | 裁判所からの連絡用の切手(管轄裁判所ごとに異なりますので確認が必要)。 |

③ 家庭裁判所での審理
裁判所に書類を提出した後、裁判所から申述人本人宛に簡単な照会書が送られてくることが多いです。
この照会書に必要事項を記入し、裁判所へ返送します。場合によっては裁判所で面談や電話照会が行われることがあります。

④ 相続放棄の受理通知取得
裁判所が審理を終え問題が無ければ、相続放棄が受理され、「相続放棄申述受理通知書」が発行されます。
これは相続放棄をしたことを証明する大切な書類となりますので、大切に保管しておきましょう。
相続放棄をする際の注意点
① 3ヶ月の期限は厳格に定められている
相続放棄ができるのは原則として「自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内」です。
この期間を過ぎてしまうと、原則として相続を単純承認したものとみなされ、放棄ができなくなるので注意しましょう。
② 一度行った放棄は取り消せない
相続放棄が家庭裁判所で正式に認められた場合、その後は放棄を取り消すことができなくなります。
後々プラス財産が見つかったとしても、受け取ることはできませんので、冷静に判断することが重要です。
③ 相続財産に触れない・処分しないこと
民法921条1号は、単純承認したものとみなされる事由として「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。」と規定しています。
そのため、相続放棄をする前に、相続財産を処分(売却・破棄)したりするなど相続人としての行動を起こした場合、単純承認したとみなされ相続放棄が認められなくなる恐れがあります。
形見分けや、葬儀費用の支出、債権の催告等、検討を要するものもありますが、相続財産には手をつけないよう注意しましょう。
④ 次の順位の相続人に影響がある
自分が相続放棄をすると、相続順位が次の人へと移ります(例えば子が放棄したら親、親も放棄したら兄弟姉妹に順次移ります)。
次順位の方に迷惑がかからないよう、あらかじめ関係者に知らせておくことが望ましいです。
まとめ
相続放棄は、被相続人の負債を引き継がないために有効な方法ですが、期限や要件が厳格であるため注意が必要です。相続放棄を選択する際には、その影響をしっかりと理解した上で手続きを進めましょう。
当事務所では、相続放棄についてのご相談や手続きのサポートを随時受け付けております。期間が限られている重要な対応となりますので、不安な点がおありの際にはお早めにご相談ください。